第八話 とあるお犬様と生類憐みの令(後編)
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「この間ペロペロした俺の手に付いてた血の味が忘れられないって?マジか、そういやお前吸血鬼だったっけか。喋る犬だと思ってたわ」
困ったように頭を掻く店長。
どうやら私が吸血鬼って設定を完全に忘れていたご様子。いや設定とかじゃなくて吸血鬼なんですけどね。生まれてからずっと正真正銘本物の吸血鬼ですよ?
「まあ血ぐらい飲ませてやっても良いけどさ、馬鹿猫三兄妹みたいに高い肉ばっかり食いたがるわけでもないし、俺の血ならタダだしなあ」
さすが私の夫、理解がありますねぇ!
「それではとりあえず五リットルほど…」
「死ぬわ!透明な麻雀牌で麻雀やってもそんな抜かれねえよ、どんだけレート安いんだよ俺の血は」
ちっ、ダメでしたか。
「それにお前、別に血なんて吸わなくても普通に飯食って生きていけるだろうが、確かこっちの世界の吸血鬼は人間社会に適応する為にそう進化したって前に言ってたよな?」
「そうですね。エナジードレインで生気を吸うのも、吸血鬼としての力を維持する為ですから別に血を吸わなくても生きていけますよ」
「それなら嗜好品って事になんのかな、俺で言うタバコとビールみたいなもんか」
「その代わり、昔に比べて吸血鬼の力は弱体化したらしいですけどね。身体強化と狼への変化、エナジードレインぐらいしか使えません。その分弱点も無くなりましたが」
仕方ないなあ、と言って店長がTシャツを脱ぎます。程よく締まったヒレ肉があらわになりました。ち、乳首…
「何ですかいきなり!何で脱いでるんですか?!」
「いや、だって血吸うんだろ?Tシャツの首元が汚れたら嫌じゃん、血って洗っても落ち難いし…」
確かにそうですけど、そうですけどっ!
「何かエッチな感じがするからダメです!ちょっと待ってて下さい!」
自分の顔がみるみる赤くなって行くのがわかります。上半身裸の店長に密着するだけでも恥ずかしいのに、首筋に口を付けて歯を立てるんですよね?そんなのもうセッ○スじゃないですか。ダメです。エッチなのはいけないと思います。
店長を残して自室に戻ると急いで全裸になってから狼の姿に変身しました。そのまま変身するとお気に入りのTシャツの首が伸びるから嫌なんですよね。
「これなら良いですよ。さあ、ガブっと行かせてください。」
「完全に絵面が大型犬に襲われてる人みたいになってるじゃねえか。それよりよし江、お前狂犬病ウイルスとか持ってないよね?」
「そもそも犬じゃないですからね!?」
さあ、どこに齧りつこうかしら。
腕もいいけど柔らかそうな脇腹もいいですね、首筋に噛み付いて身体を高速で回転させる犬の漫画を昔読んだ事がありますが、犬が喋り出すのは四巻くらいからで、それまでは飼い主の子供が主人公ポジションだった気がします。むしろ四巻からは熊と犬しか出てきません。
とりあえず無難に腕にしておきましょう。
いくら狼の姿とは言え、首はまだちょっと照れますね。
「それじゃ失礼して…」
ガブっと。俺様お前丸齧り。
以前の私では店長の皮膚に傷を付ける事は出来なかったでしょう。ですが店長の血を摂取して力を増した今の私なら少量の血が出る程度の噛み傷なら付ける事ができます。
左右の犬歯が店長の二の腕に突き立ち、プツッと音を立てました。そこから球状に溢れ出る血を一滴も溢さないように舌でペロペロ舐めます。牙の先で皮膚に二つ小さな穴を開けた程度ですし、出血量は小さじ半分にも満たないでしょう。
「あ…血止まっちゃいました…」
もう少し飲みたかったのですが、仕方ないので我慢します。またお願いすればいつでも飲ませてくれるでしょうし。口は悪いですけど、この店長さんは案外優しいんです。
私は一つ伸びをしてから店長のベッドに潜り込んで丸くなりました。
「ヨッシー君は今日は一緒に寝たいのか、よしよし、いっぱい撫で撫でしてやるからな」
今日は観たい深夜アニメがあったのですが、せっかく血を吸わせて貰ったので撫で撫でさせてあげる事にします。可愛いワンちゃんの添い寝サービス付きですよ?
わふん、気持ちいいわん…もっと掻い掻いして欲しいわ〜ん
***
それから数日後、変化が起きました。
最初は気持ち力が強くなってるな、程度でしたが、純粋な力比べでレオと引き分けたのです。
それだけではありません、古の吸血鬼が持っていたとされる能力、霧に姿を変えて攻撃を無効化する事が出来る様になりました。完全な自動防御では無く意識して発動させる為、意識外からの攻撃は防げませんが、馬鹿正直な近接戦闘であれば物理完全無効です。
よく見る創作ですと、魔力を纏った攻撃なら通るとか馬鹿みたいな穴のある設定にされている事が多いですが、聖属性魔法か、聖属性の付与された武器以外では全くのノーダメージです。はい、これチートですよ。
おかげで店長にチーム内最弱と馬鹿にされた私が、模擬戦で香苗ちゃん&絵梨花ちゃんペア、レオ&ライアンくんペアを破り、一気に最強の座に上り詰めたのです。私だけペアじゃないって?ぼっちですよ。わかってます。寂しくなんかないんですからねっ!
しかし、人間と言うものは得てしてこういう時程調子に乗ってしまい、痛い目を見る事になるのです。
ついついポロっと口に出してしまった私の不用意な発言が香苗ちゃんの心に火を付けてしまったのです。
「ふふん、店長の妻の私が魔法少女や使い魔の猫ちゃんたちに負ける訳がないのですよ」
私がそう言った翌日には、何故か聖属性魔法を習得した香苗ちゃんにボコボコにされました。それだけに留まらず、何故か全員が聖属性の付与された木刀を装備しており、私の物理無効を無効化される始末。
こうして私の天下は僅か半日で幕を閉じたのでした。
「くぅ〜ん」
「おーよしよし、みんなに虐められて可哀想になあ。ほらおいで」
でも良いのです。
私にはこうして甘やかしてくれる店長がいるのですから。私がいそいそと店長の布団に潜り込むのを知ったら、香苗ちゃん、絵梨花ちゃん、ミァちゃんの三人は嫉妬に狂って喚き散らすに違いありません。
お前らみたいなもんは指でもしゃぶって見ているが良いのですよ!
今は狼の姿じゃないと恥ずかしくてこんなにくっ付いたりできませんが、いつかきっと元の姿でも…
そんな淡い希望を胸に、私は意識を手放しました。
わふん、撫で撫で、気持ちいいわん。
本日も閲覧ありがとうございました。
 




