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第六話 とある使い魔はわからせたい

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「全員一緒でも構わないわよ、絵梨花が遊んであげるわ」


庁舎裏の倉庫の地下にある怪異対策室の訓練施設に着くと絵梨花ちゃんが自信満々に言った。情報分析官の米山さんは戦闘要員では無いようで蔵王のおっさん、本吉さん、栗原さんの三人が相手をするようだ。


「エリカ、俺はお前の護衛だ。こう言う場合護衛の俺が先に戦うのが筋じゃないか?」


レオが一歩前に出る。

絵梨花ちゃんもレオの言い分を理解したのか、入れ替わるように下がった。凄く渋々譲ったのが目に見えるよ。


「仕方ないわね。絵梨花の使い魔なんだから無様な負けは許さないわよ」

「了解だ、我が主」


レオは上着とシャツを脱ぎ捨てて上半身裸になると、闘気を解放して獣形態に姿を変えた。生まれつき闘気を用いた身体強化を使える獣人種は魔力との親和性が低く、一般的に魔法を使うのが苦手だ。だが身体強化だけに限定した肉弾戦なら俺と互角に渡り合う事が出来る実力を持っている。


「さて、それでは始めようか。好きなタイミングでかかって来るがいい」


泰然として自然体で立つレオに蔵王のおっさんが飛びかかる。魔法による身体強化を施しているようだが、まだ練度が低い。あれではレオに掠りもしないだろう。


「はあっ!」


蔵王のおっさんが飛ぶと同時に栗原さんが印を切る。対象を中心とした行動阻害系の結界だろうか、レオの周りに円形の力場が形成された。


「不動金剛縛!本吉捜査員、今ですぞ」

「怪我しても知らないからね、龍哮砲!!!」


栗原さんの結界により自由を奪われたレオに、身体強化を施した蔵王のおっさんの蹴りと本吉捜査員の放った魔力の塊が襲い掛かった。


悪くないコンビネーションだが…

相手が悪かったな。


「ガアッ!」


大きく息を吸い込んだレオが一つ吠えただけで結界は砕け散り、飛んで来た魔力の塊は掻き消え、三人は揃って吹き飛ばされて壁に激突する羽目になったようだ。


「そんな馬鹿な…気合いだけで俺たち三人を無力化するなんて…」


ヨロヨロと立ち上がった蔵王のおっさんは信じられない物を見る目でレオを見ている。本吉捜査員と栗原さんに至っては起き上がる事さえ出来ずにいた。


「アンタらさ、魔力の練りも操作も甘いんだよ。やってる事は悪くないんだが、そんなんじゃいつまで経ってもこの間の悪魔にすら勝てないぜ?」


正直言って無駄な所だらけだ。

そもそも魔法を体系的に研究していないこっちの世界じゃこれで十分なのかもしれないが、あっちの世界に行ったら駆け出しの冒険者に毛が生えた程度だろう。


各国に一人か二人程度しかいない勇者に次ぐ存在がS級冒険者、フェアフィールドの街唯一のA級冒険者にしてS級に最も近い男であるレオに挑むには彼らでは実力が不足し過ぎたんだ。


「俺だって香苗ちゃんと絵梨花ちゃんに危ない真似はさせたくないさ。だからレオとライアンを二人につけたんだ。わかったらアンタらは暫くコイツらに任せて魔力の練り方からやり直した方がいい。少なくとも今の絵梨花ちゃんと香苗ちゃんくらいには鍛えてやるよ。」


がっくりと項垂れる蔵王のおっさんにそう言ってから、本吉捜査員と栗原さんに回復魔法をかけた。


「俺たちはまだ強くなれるのか…?」

「なれるさ、だからレオとライアンも雇ってくれよ、あとついでに三人に戸籍も準備してくれたら助かるな」


ついでとばかりに無茶を言ってみたが、蔵王のおっさんは断らなかった。さすが国家権力様、言ってみるもんだね!


こうなっては香苗ちゃんと絵梨花ちゃんが捜査員として活動するのを認めざるを得ないだろう。訓練施設から会議室に戻った蔵王のおっさんは香苗ちゃんと絵梨花ちゃん、それからワイルドブラッド三兄妹に何枚かの書類を書かせると部屋を出て行った。ちなみにレオとライアン、ミァの書類は俺が代筆したよ。だってこいつら日本語書けないし…


「これが捜査員証だ、嘱託ではあるが巡査長待遇の警察官としての身分も保証される。そちらの三人の戸籍が出来るのは暫く先になるが、それまでの身分証明として使えるだろう」


小一時間程して戻って来た蔵王のおっさんは五人分の捜査員証をテーブルの上に並べてそう言った。嘱託ではあるが歴とした警察職員として扱われるようで、ちょっと小学生に与えるには多すぎる金額が月給として提示された。


どれくらいかって?

金額を聞いたよし江が「私も捜査員になりたいです」って言うくらいだね。勿論却下したよ、よし江は大事なカフェリトルウィッチの看板犬だからね。


***


県警本部を出た俺たちは駅前の高級焼肉店の前にいた。入店前から通りに流れ出す肉を焼く匂いを嗅いだワイルドブラッド三兄妹が騒ぎ出す。


「良い匂いがするな」

「僕もう我慢できないよ〜」

「肉ニャ、肉ニャ」


三人に急かされるようにして入店すると、焼肉コンロの二つ付いた八人掛けのテーブルのある個室に通された。網に炭火も良いがこの店は全ての席が鉄板だ。張り付かないし焦げにくい、肉汁も逃げ難いと良い事ずくめの鉄板方式コンロではあるが、安い作りだと肉がガス臭くなってしまう。まあこの店なら大丈夫だろう。


「んじゃ適当に注文するからなー、酒飲むのは俺とレオ、あと誰かいるか?」

「僕はお酒は苦手だから遠慮するね〜」

「私もたまには飲みたいですね、ビールお願いします」


よし江もビールが飲みたいか、よしよし今日くらい好きなだけ飲ませてやるぞ。他のみんなは烏龍茶っと。


注文を済ませるとそれ程経たずにドリンクが運ばれてくる。全員にグラスが行き渡ったのを確認して乾杯だ。


「んじゃ遅くなったけどよし江と、昨日から仲間入りしたワイルドブラッド三兄妹の歓迎会だ。みんなこれからよろしくな!乾杯!」

「「「乾杯」」」


当然とばかりに俺の隣に座った香苗ちゃんとグラスをぶつけ合う、チンという澄んだ音がしてビールの泡が少し溢れた。


「それにしても、シンが俺より歳上だったとはな。二十五年生きてきて一番驚いたよ。勿論今食べている肉の味にもビックリだが」


続々と運ばれて来る肉を焼きながらレオが言う。お前が老けすぎなんだよ、とは言わない。俺は優しいからな。


「当時二十四だったからな、もう何ヶ月か経てば三十歳だよ」

「シンくんは僕と一緒くらいだと思ってたんだけどね〜」


ライアンは当時十七歳で、今は二十二歳になる。確かに日本人は欧米人に比べて若く見える傾向があるが、十七歳に見えたってのはいくらなんでも無いだろ、お世辞か?お小遣いが欲しいのか?


「よしよし、ライアン、いっぱい食えよ」


気分がいいからライアンの皿に焼けた肉をどんどん放り込んでやる。


カルビに始まりハラミ、牛タン、ホルモン、ミスジ、ザブトン、ランプ、ロース、豚トロ。何を入れても「美味しいね〜、幸せだね〜」って言葉が出てくるライアンの口は癒しだね。


「店長飲んでます?」


ライアンの口に肉を放り込んでいると、若干酒の回ったよし江がやって来た。また面倒くさいのが来やがった。


「飲んでるぞ。久しぶりに会ったツレと飲む酒だ。美味いに決まってる」

「三人とは異世界に行ってすぐに知り合ったんですよね?どんな風に知り合ったんですか?」

「あ、そのお話絵梨花も聞きたいわ」

「私も聞きたいですね。お兄さんの昔の話」


食い付きいいなコイツら。


「そんな大した話じゃないけどな。俺が向こうの世界に放り出されて一番近かった街がコイツらが拠点にしてたフェアフィールドって街でさ、言葉もわからない俺に言語理解の魔導具を貸してくれて、暫く面倒見てくれたんだ。当時はろくに魔法も使えない足手まといだったからなあ」

「シン兄ちゃんに魔法を教えたのはボクなのニャ。教えたのは基礎程度だったけど、魔力量が馬鹿みたいに多いシン兄ちゃんにすぐに追い抜かれちゃったニャ」


半年くらいだったか、三人と一緒に過ごしたのは。結局夢で何回も何回もしつこいくらいに御告げを垂れ流してくるクソ女神に急かされて、邪神討伐の旅に出たんだったな。


俺がテンプレ通りに冒険者ギルドで絡まれた事、絡んできたC級冒険者を血祭りにあげた事、その時の俺の第一声が「鼻切り取って食わせるぞカス、今度から俺を見たら地面に頭擦り付けて財布差し出せや!」だった事などをレオとライアンが面白可笑しく話している間に香苗ちゃん、絵梨花ちゃん、ミァが眠気に負けてウトウトし始めた。


「名残惜しいがお開きにするか。また来ようぜ」


もう会う事も無いと思っていた友との邂逅。

そのきっかけをくれた香苗ちゃんに感謝しながら、俺はグラスに半分残っていたビールを喉に流し込んだ。


「帰ろうぜ、俺たちの家に」


本日も閲覧ありがとうございました。

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