第四話 とある使い魔の多重下請構造
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苦み走った欧風イケメンマッチョの長男レオ
ぽっちゃりおっとり癒し系の次男ライアン
引っ込み思案な末っ子のミァ
俺の異世界での長いソロ人生で唯一仲間と呼べる存在。フェアフィールドのワイルドブラッド三兄妹。まあミァは元気いっぱいなボクっ娘に成長していた訳だが。
そんな彼らがこっちの世界の、我が家のリビングで、テーブルを挟むようにして座っている。
言うて俺が強制的に喚び出したんだけどね。
ほら、俺だって向こうの世界にいきなり喚び出された訳だし、俺が喚び出しても別に良いよね?
「話はわかった。未だに信じ難いがここがシンが元居た世界で、俺たちはシンにフェアフィールドから召喚された、って事でいいのか?」
さすが長男坊、理解が早いね。
「ああ、それで間違っていないよ。」
レオは現状把握にいっぱいいっぱいだ。脳筋の癖に無理しやがって。比べて弟妹たちはマイペースにも程がある。テレビに夢中になって、お約束通り「箱の中に小人さんがいるよ」ってビックリしていた。
ここで俺は、あの嘘あらすじを書いた時から言いたくて言いたくて堪らなかった台詞を口にする。
「魔法少女と契約して使い魔になってね★」
やっと言えた。
あの苦しかった結婚前夜から一ヵ月、やっとこの台詞が言えたよ。
***
翌日、朝から意気揚々とやって来た香苗ちゃんと絵梨花ちゃんの前に二足歩行のライオンを二匹並ばせる。
昨夜は三人にはウチに泊まってもらった。
シン兄ちゃんと一緒に寝るニャとうるさかったミァをなんとか説得して普段よし江が寝ている部屋に押し込み、レオとライアンは物置にしている空き部屋で寝かせた。よし江?よし江なら俺の部屋で一緒に寝たよ。勿論犬モードで、だが。ふかふかモフモフで最高でした。長毛種の大型犬ってなんでこんなに可愛いんだろうね。
「ほら香苗ちゃん、絵梨花ちゃん、リクエスト通りの可愛い使い魔さんだよ。ちょっと大きくて二足歩行で獣臭いけど、ネコ科の動物だしこれで我慢してね」
「チェンジで」
いくらなんでも即答は酷いよ絵梨花ちゃん。レオとライアンが捨てられた子猫みたいな目になってるじゃないか。
絵梨花ちゃんの視線がテーブルに腰掛けて成り行きを見つめるミァの方へ
「あー、言っとくがミァはダメだぞ。ミァにはカフェリトルウィッチの看板娘をやってもらう予定だから二人の使い魔には回せない」
先回りされて絵梨花ちゃんがぐぬぬって唸ってる。ミァは母親似らしく獣人形態も猫耳猫尻尾以外は人間と変わらない。そりゃ二足歩行のガチムチライオンとかぽっちゃりライオンと比べたらミァは可愛いけどさ。
「私はライオンさん可愛いと思うけどなあ、こっちの子はぽっちゃりしててぷにぷにで可愛いし。ライアンくん、お菓子食べる?」
「うん!こっちのお菓子って甘くて美味しいよね、僕大好きだよ」
香苗ちゃんが早くもライアンを手懐けている。二人ともおっとりキャラだしなかなか良いコンビかも。ちょっとデブだけど巨大なライオンが幼女から餌を貰っている様はなかなか危険な気がするけどな。
「仕方ないわね、それじゃこのライオンで我慢してあげるわ」
絵梨花ちゃんも折れてくれたようだ。
まあイマイチ納得が行かないのか、レオは独り言みたいにぶつぶつ文句を言っていたが。
「何で急に呼び出された挙句に使い魔の下請けさせられて、可愛くないとかイチャモンつけられなきゃならないんだろうなあ…」
「腐るな腐るな、護衛依頼の依頼主がイラつく事なんていつもの事だろうよ」
「まあ、そうだな。だが依頼料はしっかり弾んでもらうぞ、シン」
レオが真面目な顔に戻って言う。腐っても高ランク冒険者、依頼を受ける時の顔だ。
「ああ、わかってる。まあお前らに金を払うのはこの国の衛兵?騎士団?なんかそんな組織だ。この世界には魔法も無いし、協力な魔物もいない。上級悪魔が一匹現れたくらいで大騒ぎするような平和な世界さ」
「それならわざわざ俺たちに頼まなくてもシン一人でなんとでもなるだろうに」
「まあな。だが使い魔は可愛い動物型で喋れなきゃいけないって条件があるんだ。この国にはそんな様式美が昔からあるのさ」
「けったいな国だな」
「違ぇねえな」
レオと二人で顔を見合わせて笑う。
「まあ、お前らを喚んだのは単に俺が会いたかったからだ。今は急ぎのクエストも無いんだろ?暫くこっちでゆっくりしていけよ」
照れ笑いを浮かべてレオに言うと、レオも照れ臭そうに笑ってくれた。友達ってのはいいもんだ。
「真一ばっかりライオンさんと楽しそうにお話ししてずるいわ!ほらレオ、撫で撫でさせなさい!」
文句ばっかり言っていたが、絵梨花ちゃんもレオに構いたくて仕方なかったらしい。ふかふかのレオのたてがみに顔を埋めて毛の感触を楽しんでる。
「よし、今日は三人の歓迎会だ。高い焼肉食いに行くぞ。勿論よし江も一緒だ。たまには高級ドッグフード以外の物も食べたいだろ」
「さすが店長、愛してますよ」
あ…
完全に油断していた。
今のよし江は犬モード、それを忘れて声をかけ、よし江もすっかりいい気分で返事をしてしまった。
「ふーん、ずっとお店にいるヨッシー君がよし江さんだったんですね?この家で二人で暮らしていた、と?ちょっとお兄さんとはじっくり話し合わないといけないみたいですね」
何人か殺していそうな目で香苗ちゃんが俺ににじり寄ってくる。ヤバいよ、口元は笑ってるのに目がシリアルキラーのソレだよ。
うふふと笑う香苗ちゃんに冷や汗が止まらない俺。さらに大きな爆弾は我関せずとテレビを見ていたミァから投下されたのだった。
「昨夜はボクと一緒に寝ようって誘ったのに、シン兄ちゃんはよし江と一緒の部屋で寝てたのニャ。シン兄ちゃんは猫より犬派なのかニャ?」
あ、俺死んだ。
***
迫り来る香苗ちゃんの追求から一人逃れようと、よし江は人間の姿になった三人の洋服を買いに行くと言ったきり姿を消した。勿論俺に逃げ道は無く、香苗ちゃんの容赦無い尋問が待っていたよ。
それだけならまだダメージは少なくて済んだかもしれないが、ミァが余計な一言を言って火に油を注ぐものだから、更に香苗ちゃんはヒートアップするのだ。
「シン兄ちゃんは昨夜よし江と一緒に寝たから、今夜はボクと一緒に寝るニャ」
「ダメです。お兄さんは私と一緒に寝るんです。」
「香苗ちゃん、香澄ママに泊まるって伝えてないんだろ、歓迎会終わったら送って行くからアパートに帰ろうな」
「問題ありません、明日は土曜日でお休みですし遅くなるようなら泊まってきても構わないとお母さんの承諾は得ています。むしろお兄さんが私の部屋に帰るべきです。さあお兄さん一緒に帰りましょう」
うう、香苗ちゃんの圧が凄いよう。
こうなってしまうと香苗ちゃんは暫くは止まらない。
「シンくんは〜、モテモテだね〜」
「シン、ウチの妹はまだ十四歳だ。手を出すのは許さんぞ」
「レオ兄ぃはたてがみむしられたくなかったら黙ってるニャ」
「真一はその八方美人な性格を辞めることね。勘違いする子がどんどん増えていくわ」
「お兄さんが優しいのはいい事ですが、私以外の女の子に優しくするのはちょっと…」
みんな好き勝手言いやがって。
結局その後は機嫌が治るまで香苗ちゃんを左膝の上に乗せて過ごしたよ。途中、空いている右膝に座りたかったのかミァと絵梨花ちゃんが言い争っていたけど、香苗ちゃんが俺を独り占めしようと向い合わせの態勢で両腿の上にまたがる様にして座り直してた。
「あー、香苗ずるい」
「そろそろ交代して欲しいニャ、ボクもシン兄ちゃんのお膝の上に座りたいニャ」
これでミァまでここに住ませるなんて言ったら、本気でアパートに連れ戻されそうだな…
何か良い手は無いものか……
本日も閲覧ありがとうございました。