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第一話 とある使い魔の遭遇


トンネルを抜けるとそこは雪でした。

じゃない。そこは無人の図書室らしき場所だった。


懐かしいこの古びた紙の匂い。

あの世界には殆ど紙なんて無かったもんな、大体が動物の皮から作られた羊皮紙だったし、紙があっても異常に高価で貴族しか使ってなかった。


それに比べて芳しきこの文明の香り。

あれ、ここ地球だよな?

何処かの図書館かな?

もしかして俺帰ってきた?


「いいいぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉう!!!」


何だか良くわからんが俺は帰って来たんだ。

窓にはちゃんとガラスがはまり、蛍光灯で室内が照らされた近代文明のある世界。


嬉しさの余りに両手を高々と挙げ、渾身のガッツポーズ。所謂一つのコロンビアって奴だ。


窓の外には赤みの差した夕焼けに照らされた街並みが見える。どうやら夕方らしい。


「ふぇぇ…」


足元から蚊の鳴くような声が聞こえて、ふと足元を見ると、テーブルの上でコロンビアのポーズをキメた俺を見上げて涙目になっている十歳くらいの少女が一人、引き付けを起こしたように肩を震わせている。


いかん、これは事案になりかねない。

幸にしてこの図書室にはパンツ一枚の俺と少女の二人きり。


意を決した俺は、引き攣る頬を渾身の表情筋操作で緩めつつ、少女に語りかけた。


「こ、怖くないよ?泣かないで?」


逆効果だったか?

テーブルから降りて恐る恐る少女の顔色を伺ってみる。涙目ではあるが急に叫び出したり、対ロリコン用決戦兵器の防犯ブザーを鳴らそうとしたりはしていないようだ。


「あ、あの…」


上目遣いで、おずおずと少女が口を開く。


「お兄さんは悪魔なんですか?」


はて?悪魔とはどう云う事だろう。

まだ二十九歳だからお兄さんと呼ばれるのはわかる。では悪魔とは?確かに魔物や敵対的な行動を取った魔族、犯罪者を含む一部の人間に対しては悪魔と呼ばれても差し支え無い程度には恐れられていたが、そんな事をこの少女が知る由も無いはずだ。


俺の顔を見てからテーブルの上に視線を移す少女、その視線を追う様にしてテーブルを見るとそこには「猿でも出来る悪魔召喚入門」と書かれた怪しげな本が一冊…


手に取ってパラパラと捲ると可愛らしいイラストで装飾された召喚陣が見開きページで載っていた。微かに感じる隠蔽魔法の残滓、一定以上の魔力を持った才能ある人間以外には存在を感じさせないようにする術式が本に付与されていたのだろう。


「質問に質問で返す様で申し訳ないが、俺を喚んだのは…君か?」


こっくりと首を縦に振る少女


「この本は悪魔召喚の入門書なんかじゃない。一定以上の魔力を持った美味しいお魚を釣り上げる為の釣り餌と釣り針だ。」


魔法陣に刻まれた術式を見る限り、この魔法陣は悪魔を喚び出す物じゃなく、チャンネルの近い世界から無作為に力の強い何かを喚び出す物。


偶々あの世界で一番力の強い俺が喚ばれたから良いようなものの、人を喰らう魔物や、運良く?少女の言う様な悪魔を喚び出してしまっていたら、今頃彼女は美味しい晩御飯にされていただろう。


「そして死ぬ間際の絶望した人間の魂を喰らう…って訳か」


気配を消して近づこうったって無駄だ。

背後から近寄る司書の姿をしたモノに属性変換すらしていない純粋な魔力の塊を投げつける。


「ギャァ!アアウゥゥアッ!!!」


声にならない叫び声をあげてソイツは黒い霧になって消えた。たかが低級悪魔、魔力を使うまでもなかったが、俺を地球に喚び戻すきっかけを作ってくれた礼に苦しむ時間すらないまま消滅させてやる。


「あの…お兄さんは一体…」


震えながら見上げてくる少女。

俺はパンツ一枚のまま、キメ顔でこう言った。


「俺は黒川真一、ついさっきまで勇者と呼ばれていた。」


ちょっと短いですがキリがいいので投稿します。

また明日も宜しくお願い致します。

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