第二話 とある使い魔の戦力外通告
ある晴れた昼下がり、突然訪ねて来た蔵王警視は言った。荷馬車にも揺られないし、市場に売られたりもしない。
「平たく言えば妖怪退治の専門家ですよ」
おいおいおい、平たく言い過ぎだろ。
確かによし江や木山、この間ぶっ殺した悪魔みたいな奴らが好き勝手やってるならそれを専門的に対策する集団は必要だろうけど、こっちの世界に魔法なんて無いだろうし、どうやって戦ってんだろうね。
「突然お邪魔して申し訳ありませんね、お店もお忙しいでしょうし手短に聞きたいと思います。松島絵梨花さんと岩沼香苗さん、良くこちらのお店に伺っているようですが、何か変わったところはありませんか?」
漠然とした質問だなあ。
無関係な喫茶店の店主に聞く質問にしては曖昧で要点が絞れていないし…
「ちなみに対策室では貴方の事も一連の松島組に関わる騒動の中心人物と見做していますよ。黒川さん」
あちゃー、無関係コースじゃなくてバリバリ関係者コースですか。そうですか。
「貴方が岩沼香苗と同居を始めてすぐに松島組と菱山組の抗争が勃発、直後から貴方と岩沼香苗が松島組長の邸宅に頻繁に訪れるのが目撃されています。また菱山組二次団体の鉄虎会事務所が何者かに襲撃された日、関西方面行きの新幹線に乗っていましたよね?まあ何処に行ったかなんて野暮な事は聞きませんよ、貴方が我々の知りたい情報を喋ってくれている間は、ね」
食えないおっさんだな。
それにしても俺の行動だいたい把握されてるじゃねーか。国家権力舐めてたわ。
「で、何が聞きたいんだ?」
「そうですね、単刀直入に言えば、松島絵梨花さんと岩沼香苗さん、彼女たちは何らかの特殊な能力を持っていますね?およそ十日程前に二人の通う小学校で高次元エネルギー反応、我々はNo.5と呼んでいます。まあ分かりやすく言えば超能力や魔法のような物ですね、その反応がありました。強力な力を持ったエネルギー体、妖怪やモンスターに類する者と、それ以上の力を持った能力者が戦い、能力者側が勝った。我々はその日の事件をそう推論しています。その能力者が松島絵梨花さんと岩沼香苗さんなのではないだろうか、と」
ふむ、なかなか良い線いってる推理ではあるが、コイツらは香苗ちゃんと絵梨花ちゃんが悪魔をぶっ殺した能力者だと思ってる訳か。んで俺が二人の協力者だと。
魔法とか非科学的な事言わないでくださいよ、ってしらばっくれてみても無駄なんだろうなあ…
「答える前に一つ聞かせてくれ。アンタらは彼女たちの敵か?味方か?香苗ちゃんと絵梨花ちゃんが特殊な力を持っていたとして二人に何をさせたいんだ?」
もし二人を実験動物みたいに使おうってんならこっちにも考えがあるぞ。関係者全員ぶっ潰してアメリカなりイギリスなりに亡命したる。金もあるし、魔法の知識を切り売りすれば香苗ちゃん母娘と絵梨花ちゃん、松島会長、白石くん、松島組の構成員のチンピラどもまで、ちゃんと面倒見てくれるだろ。
さあ蔵王警視、今がお前の分水嶺だ。
今からお前がする回答一つで警視庁怪異対策室が壊滅するかどうか決まるからな。
「敵対する意志は無い。悔しいが彼女たち二人が想像通りの能力者だった場合、俺たち警視庁怪異対策室全員が束になっても勝てないだろう。東北支部だけじゃない、日本全国に散らばる捜査員を全て集めても、だ。」
蔵王警視が強く握りしめた拳がブルブル震えている。
「我々は大人だ。子供たちの未来は大人が守らなければいけない。だが俺たちに力が足りないから…彼女たちの力を借りたい…」
俺の目を真っ直ぐ見つめて語る蔵王警視の瞳には迷いが無かった。力不足を実感し、守るべき子供を前線に送り出さなければならない矛盾、それらを飲み込んででも日本を、国民を守りたいって奴の目だ。向こうの世界で戦争に行く兵士が同じ目をしてたっけ…
「話は聞かせて貰ったわ!」
店のドアが壊れそうな勢いで開かれる。
嫌な予感がして入り口に目をやると、案の定そこには腕を組んで仁王立ちする絵梨花ちゃんと香苗ちゃんが立っていた。
***
「要するに絵梨花と香苗に、怪異?妖怪?化け物と戦って欲しいって事で合ってるかしら?」
絵梨花ちゃんが前のめりで蔵王警視に質問してる。香苗ちゃんは我関せずとマイペースによし江(犬モード)を撫で撫でモフモフしている。
「あ、ああ。だいたいそれで合ってるよ。君たち二人が良ければ警視庁怪異対策室の嘱託職員として怪異との戦闘に参加してもらいたい。もちろん親御さんの許可を得た上で、だが」
おずおずと説明する蔵王警視。
うわあ、本気で絵梨花ちゃんにびびってるんだなあ。
「断る理由が無いわ。それって要するに警察公認の魔法少女になって欲しいって事よね?最高だわ、絵梨花の夢が叶うんですもの!」
「絵梨花ちゃん、そんなすぐに決めなくてもいいと思うの。私もお母さんに相談しなきゃいけないし、絵梨花ちゃんもお爺ちゃんと一度お話してから決めたら?」
食い気味に承諾しちゃう絵梨花ちゃんを香苗ちゃんが上手く宥めてくれている。なかなか良いコンビだな。
「それもそうね、こっちにも準備ってものがあるし」
そう言った絵梨花ちゃんの台詞を聞いた蔵王警視は殊更にほっとした顔で帰って行った。横で聞いていても絵梨花ちゃんの熱はすごかった。もう魔法少女になりたくてなりたくて堪らないみたいだったよ。蔵王警視から怪異対策室の活動について根掘り葉掘り聞いてたし。
さて、蔵王警視も帰ったところで作成会議だ。
「で、香苗ちゃんと絵梨花ちゃんは怪異対策室に協力するつもりなの?今の二人の実力なら、この間の陰険悪魔くらいなら普通に倒せると思うけど」
何気無く言った俺の台詞に、よし江(犬モード)がビクッと背中を震わせる。
あ、なるほど。
確かあの悪魔、よし江と同レベルって言ってたもんな。まさか最近魔法が使えるようになったばかりの二人が自分より強くなってるなんて思わなかっただろうな。
すっかり怯えちゃって尻尾を股の間に挟んでプルプルしてる。お前の戦闘能力については期待してないから安心すると良い。よし江は喫茶店リトルウィッチの看板犬だからな。
「勿論よ。絵梨花が東北の平和を守るんだから」
「そうですね。失礼かも知れませんが、蔵王さんの魔力は私と絵梨花ちゃんの三分の一も無いくらいでしたし…」
ちょっと待って、なんで香苗ちゃん相手の魔力量とか測れるようになってんの?俺でもそんな事できないよ?スカウターなの?戦闘力たったの五かゴミめ、とか言われちゃうの?
二人の心は決まってるみたいだ。
それなら俺は全力でバックアップするしかないな。
「でもやっぱり魔法少女と言えばマスコット的な使い魔ね。小さくてフワフワしてるやつ。真一、使い魔用意出来ないかしら?あ、真一は却下ね」
「確かにお兄さんは私の使い魔ですけど可愛くないですから…あ、でも私はお兄さんが使い魔で良かったって思ってますよ?見た目は可愛くないかも知れませんが、色んな意味で可愛いので」
香苗ちゃんそのフォロー要らない。
どうやら俺は魔法少女二人から使い魔として戦力外通告を出されてしまったらしい。
「わっふっふっふ」
クソが、よし江が笑ってやがる。
お前だって使い魔的には戦力外だからな。
「可愛い使い魔ねぇ…」
魔法少女の要求を満たすような使い魔を、俺が用意できるんだろうか…
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