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異世界救った帰還勇者だけど魔法少女の使い魔始めました。  作者: シモヘイ
第二章 夢見る無職じゃいられない。
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第六話 とある使い魔のキングオブ夜行バス


「こっちは問題なく終わった。今日はもう遅いし一泊してから明日の朝の便でそっち帰るわ。多分午後ぐらいになるんじゃねえか。あ?飛行機ならもっと早いって?乗った事無いから不安なんだよ。あんな巨大な鉄の塊が飛ぶってどう言う事だよ、俺は信じられねーよ、うるせえなあ、新幹線で帰るよ新幹線で。手前ぇ帰ったら覚えとけよ」


白石くんとの電話を切って繁華街へ向かう。

本場のたこ焼き、某有名飯店の中華まん、串カツ、食べたいものが幾らでも出てくるよ。


俺基本的に東日本から出たことなかったからなあ。中学の修学旅行は東京だったし、高校の修学旅行で来たくらいかな?大学も就職もS市内だったしね。そばとかうどんで有名なカップ麺のスープの味が東西で違うって知ったのも高校出てからだったし。


まずは串カツからかな。って思って店の暖簾を潜ろうとした時に携帯が鳴る。


「お兄さん。用事済んだなら早く帰ってきてくださいね。外泊?ダメに決まってるじゃないですか」


プツッ、ツーツーツー


嘘だろおい、飯食ったらお姉ちゃんのいる店に飲みに行って、それから大人のお店に行こうと思ってたのに。ほら、旅行とか出張の時ってそう言う気分になるじゃない。何なんだよもう。向こうの世界にいた時もそうだったんだよ。だってさ、俺世界を救った勇者様よ?そりゃ女の子も寄ってくるわけよ。でもさ、いざそう言うタイミングになると何でか知らんけど邪魔が入るの。大概あのキチ王女のせいなんだろうけどさ。あー辛いわー。


「仕方ねえ、夜行バスで帰るか…」


***


マジ地獄でした。

東京まで夜行バスで十時間ちょっと。東京から始発の新幹線乗ってS市まで二時間。昨夜の晩飯?バスの中で食べたコンビニ弁当かな。朝は東京駅でサンドイッチ買って食ったよ。


今朝の八時半ですよ。


きっちり時間通りにS駅の新幹線ホームで待ってた香苗ちゃんを見て俺は背中に氷入れられたみたいに怖気が走ったね。


「おかえりなさい。早く帰りましょう」


そう言って俺の手を取る香苗ちゃんに引かれるまま泉区の香苗ちゃんのアパートに戻った。どうせ白石くんのとこに顔出すのは夕方の予定だったし、夜行バスであんまり寝られなかったから、少し昼寝させて貰おうかな。


さも当たり前の様に俺の布団に香苗ちゃんが入ってくるけど、もう気にもしなくなったよ。


***


起きたら十八時で少し焦ったけど、携帯には白石くんからの連絡は無い。四月とは言え東北の夜はまだまだ冷え込みがきついから上着を羽織って松島ファイナンスビルに向かった。


「おっすおっす」

「「「お疲れ様です!」」」


松島組の構成員二十人が一斉に頭を下げる。ホントやめてくんないかな。反社会勢力密接交際者芸人じゃないんだからさ。


会長室のドアを開くと、松島会長と白石くんが待っていた。床には後ろ手に縛られた鉄虎会会長、兼菱山組若頭の津田老人が転がされている。俺が玉潰したからズボンの股間に赤い染みが広がっているけど、まあかろうじて生きてるみたい。


「兄さん、全部やらせちまったみたいで済まねえな。菱山が強硬手段に出やがったもんで、墨田のツレに頼んだ仲裁も無駄になっちまったみたいだし」


申し訳なさそうに松島会長が頭を下げる。


「気にすんな。コイツらヤクザの喧嘩に化けもん使ってやがったし。そうなりゃ俺の管轄って奴だ。それより菱山の組長も拉致ってきたけどどうするよ?」


今まで何も無かった空間に突然憔悴した老人が現れたら吃驚するよね?案の定松島会長も白石くんも目を見開いている。いいよ、そのリアクション。


俺がクソ女神から貰った唯一の力、アイテムボックスの魔法を改良して、生き物も収納できる様にした禁術の一つ。収納先はクソ女神の部屋をイメージした何処まで行っても白一色のだだっ広い空間。世界管理神が構築した術式を更に俺の魔力で魔改造してるもんだから、多分ここに閉じ込められたら自力で脱出できる奴はいないんじゃないかな。異世界での一連の事件の黒幕だった邪神を封印するのにも使ってみたけど、完璧に封印できてるもの。あ、何日かに一回はご飯と水を与えてるよ。邪神って言っても神力を持ってるだけの雇われ管理者みたいなもんだから食わなきゃ死ぬからね。


「んで、この二人の処遇については松島会長に任せるわ。多分あんたの家族を殺すように指示したのもコイツらだろ。好きにしていいんじゃね?」


松島会長に見下ろされた宮前組長と津田若頭が形振り構わずに命乞いを始めた。曰く菱山組は松島組の傘下に入るだの、すぐに引退するから命は助けてくれだの、仕舞いにはお互いに罪をなすりつける様に口論まで始める始末。


「言いたい事はわかった…」


一通り菱山組ツートップの命乞いを聞いた松島会長が、今まで押し黙っていた口を開いた。


「まず白石、儂は今日を持って松島組組長の椅子をお前に譲る事にする。今からお前が松島組組長だ」

「親父…」

「それから、黒川の兄さんよ。すまねえが絵梨花の事を頼みてえ。アンタに任せておけば安心だろう。年寄りの最後の頼みと思って聞き届けてくれたら助かる」


そう言うや、松島会長は懐から取り出した匕首で宮前会長の胸を突き刺し、抜いたと同時に津田若頭の首を深く切り裂いた。


断末魔の声を上げて倒れ伏す二人に背を向けて松島会長が続ける。


「菱山組の構成員二万人が箍を外して暴れるような事になっちゃ、堅気の衆に迷惑がかかる。コイツらぶっ殺したツケは儂の命で払うとするさ。まあ釣り合うかどうかはわからんがね」


そう言って自分の首に匕首を添える松島会長。

自分が死ぬ事で戦争にケリをつけようってんだろうけど、そうはいかねえぜ。


俺は身体強化魔法を使って松島会長の横まで移動すると、その右手を掴んで、匕首を取り上げた。


「何をする、黙って死なせてくれ」

「会長よく見ろ。アンタが死んで抗争を終わらせる必要はねえんだ。」

「それじゃ釣り合いが取れねえ…菱山は組長と若頭殺られてるんだ。間違いなく抗争は継続するだろうし、堅気の衆への配慮なんか無くなってなりふり構わない戦争になるだろう。」

「宮前も津田も死んでねえよ。勝手に殺すな」


嫌な予感がしてアイテムボックスから上級の回復ポーション出しといて良かったぜ。まあこんな奴ら死んでも構わないが、それで絵梨花ちゃんが唯一の肉親を失う事になるのはいただけねえからな。


「兄さん…アンタ…」

「絵梨花ちゃんにはまだアンタが必要だろ。こんなくだらねえ事で死んでんじゃねえよ。」


あとは宮前組長と津田若頭の処遇か。

あーあ、回復ポーションで俺が潰した玉まで治ってるわ。


「お前ら、さっき言ってた内容に嘘は無えだろうな。何だっけ?お前らが引退して菱山組は松島組の傘下に入る、だっけか」


少し殺気を解放しただけで青い顔になって首を縦に振り続ける老人が二人。


「それじゃ少し足りねえな。俺がお前らを治療するのに使った上級ポーションは腕や脚が取れようが内臓吹っ飛ばされようがすぐに元通りになる貴重品でなあ。初回大サービスって事で十億に負けといてやるよ、払えるんだろ、あんなデカい家に住んでるくらいなんだし」


憔悴し切って項垂れる老人二人を白石くんが別室に連れて行く。これから奴らの引退届を関西の警察に提出して、菱山組本部として松島組傘下に入るって声明を出す事になるんだろう。


「松島会長、アンタがヤクザを辞めるのを止めたりはしないけどさ、絵梨花ちゃんを一人残して死ぬような事はするんじゃねえよ。それにほら、これから忙しくなるぜ。アンタが日本最大の暴力団のトップになったんだ。新体制作りもあるだろうし十年くらいはヤクザ辞められないんじゃないの?」


唖然とした松島会長に笑いかけてから、部屋を出る。あ、そうそう、言い忘れてた事があったわ。


「菱山組が用心棒に雇ってた化けもん三人だけどさ、一人は戦う気が無いのか逃げちゃったし、一人は俺が始末したんだけど、あんまり害の無さそうな奴を一人預かってんだよ。俺が貰っていいよな?」

「絵梨花から若い女って聞いてるよ。兄さんも好きだねえ」

「言ってろ。そんなつもりじゃねえよ」


苦笑い一つ残して今度こそ会長室を出た。

背後で松島会長が深々と頭を下げてたみたいだけど気づかないふりをしておくよ。


「さて、んじゃ帰るか」


報酬の喫茶店の店舗と土地の権利書は譲渡手続きが終わったら届けてくれるらしい。これで無職だなんて言われなくて済むぜ。まあ菱山組からぶんどった十億もあるし働かなくても生きていけるけどさ、やっぱり世間の目って気になるじゃない。


浮かれて帰る帰り道、だけど、俺の脳裏には一人だけ取り逃した悪魔の事が小骨みたいに引っかかっていたんだ。


こんにちは、シモヘイです。

本日も閲覧ありがとうございました。

第二章はこれで一区切りとなります。後はエピローグを挟んで第三章をお届けする予定です。


もし少しでも面白いと思っていただけたら、評価、ブクマをお願いします。出来るだけ完結まで走り続けたいと思っておりますが、皆様の反応が燃料みたいなものですので、私に限らず面白いと思った作品には何らかの反応をしていただけますと幸いでございます。

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