第五話 とある使い魔の一人旅
今回も暴力的表現がございます。。
S市駅から十分ほど歩いた裏通りにある雑居ビルの七階、鉄虎会の仮事務所を出るとドライバー白石くんがいつものBMWで待っていた。
「お疲れ様です」
「おう、お土産もあるからな。ちょっと後ろのドア開けてくれや」
白石くんが開けた後部座席のドアから菱山組若頭の津田篠太郎を放り込む。
「鮮やかですね。鉄虎会の連中は?」
「一人残らず鎖骨と両足の骨折っといたよ。まあ動けないだろうな。ついでに事務所にあった拳銃とか、何か良くわからん薬とかまとめてポリ袋に入れて玄関先に引っ掛けといた。後で警察呼んどくわ」
まだ昼過ぎか。今から関西まで行くとなると新幹線で片道六時間だから夜には着くな。晩飯は向こうで食べよう。
「おのれら、ワシにこんな真似してタダで済むと思っとるんか、コラ!」
「はぁ?何で手前らクソヤクザは揃いも揃って同じ台詞しか言えねーんだバカ。そこにいる白石くんがつい十日ばかり前に言った台詞だぞ、もう少しオリジナリティって奴は無いのか?無いんだな、そうかそうか低脳だからヤクザにしかなれなかったんだもんな。ごめんな可哀想になあ、ホント可哀想だよ脳味噌の容量少なくて。お詫びに鼻か耳引き千切ってやりたいんだけど、車が血で汚れると白石くん怒るんだよ、多分器が小さいんだろうね、お茶碗の裏側くらいしか無いんだろね。んじゃ血が出ないように指一本ずつ折るね。いち、に、さんで折るからね、行くよ、いち」
「イギャッ」
白石くんが運転席からこっちを見て、また兄貴の悪い癖が始まったよ、とかブツブツ言ってる。俺はお前みたいな四十過ぎの弟を持った覚えは無いわ。
「ごめんな、あんまりお年寄りを虐める趣味は無いんだけどさ、今時のヤクザの偉いさんなんぞだいたいお爺ちゃんじゃない。お爺ちゃんで思い出したけどお前らが揉めてる松島組の会長な、お爺ちゃんの癖に愛人三人いるんだってさ、お盛んなことで大変結構だよ。あの爺さんが女独り占めしてっから俺んとこに女が回ってこないんだと思うんだけどさ、津田篠太郎くんだっけか、君はどう思う?」
「し、知るかボケェ…」
まだ折れてないんだね、嬉しくなっちゃうよ。
「口の聞き方に気をつけようね。俺が老人を虐めないってのはポリシーって言うか自分ルールみたいなもんだからさ、良く言うじゃない、ルールは破るためにある、ってさ」
言うやいなや津田老人のタマタマを掴んで握り潰す。あ、二個共いっちゃった。
「あーあ、泡吹いてら。関西行ってコイツの親分拉致ってきたら治してやるから、暫くこのまま監禁しといてよ。指一本と玉二つ潰されたくらいなら死なないでしょ。多分、知らんけど」
「わかりました。お預かりします…」
菱山組の先行部隊は潰したし、若頭も拉致った。後は関西まで出向いてたこ焼きと中華まん食って、ついでに菱山の大将にお仕置きしてくるか。
俺、基本ぼっちのソロプレイヤーだから、防衛戦って嫌いなんだよね。こっちから乗り込む方が性に合ってるわ。
あー、新幹線とか久々に乗るわー。
凄い楽しみ。駅弁の紐引っ張るとあったかくなる牛タン弁当ってまだ売ってんのかな。
「兄貴、駅に着きました。切符はこちらを使ってください。十五分後の便です。」
「ありがとね、白石くん」
切符を受け取ってBMWを降りる。
さてさて、東京まで二時間、新幹線乗り換えてそこから三時間半の長旅だ。
***
新幹線の中ではだいたい寝てたよ。
白石くんが気を利かせてグリーン車取ってくれてさ、凄く座り心地良かったよ。
で、この観光名所ばりにデカい日本家屋が菱山組六代目組長、宮前権三郎の自宅って訳ね。どんだけデカい家なんだよ、塀の端が見えないとか漫画のお金持ちでしか見たことないわ。こんなデカい家に住めるくらい悪い事してんだろうな、ちょっと懲らしめてやりますか。
認識阻害魔法使ってから、高さ三メートルくらいある塀を飛び越えると、だだっ広い日本庭園が目の前に広がってる。所々にドーベルマンがウロウロしてるけど俺の認識阻害魔法は筋金入りのぼっち仕様だから犬にも見破れないぜ。
「お邪魔しまーす」
小声で言って無駄に長い縁側の雨戸を開ける。
広い和風建築って迷っちゃうよね、面倒臭いから突っ切るか。
襖をバンバン開けて広い和室を何回も通過すると、屋敷の奥まった部屋に身長二メートルくらいの大男と、鶴みたいな顔をした細い老人が立ってた。雰囲気からして俺の事を待っててくれたみたい。
「忍び込んだつもりか知らんが、全部監視カメラに映っとったぞ」
あちゃー、だから途中組員と鉢合わせしなかったのかね。何なの、ヤクザの癖に余裕見せてボディーガードと二人だけで俺の事を待ち構えてたって事か?舐め腐りやがってよぉ。
「お、お前、ちょっと他の人間と違うな。食ったらどんな味がするのかな、お、おで早く食いたい」
「木山、好きにしていいぞ、どうせ松島組のヒットマンだろう。食い残した分は松島組の事務所に送りつけてやればええ」
「こ、こんな小さい奴強いわけないんだな」
木山と呼ばれた大男の筋肉が盛り上がり、額の中央には太い角が一本生えてきた。
オーガっつーか食人鬼かよ、だからY県民の言う事はあてにならないんだよ。これは害獣駆除だな。あと、どうせならおにぎりが食べたいんだなって言って欲しいなあ。
「俺たち人間だって牛さんとか豚さん殺して食ってるからあんまり文句も言えた義理じゃないけどさ、こっちの世界にお前みたいな害獣がいると迷惑なんだわ。どうせ何人も殺してるんだろうし、お前も殺されても文句言うんじゃねえぞ」
筋肉達磨の食人鬼なんぞ小指の先でぶっ殺せるけど、この後の事を考えると菱山組組長の心はへし折っておいた方がいいよな。よし、んじゃ久々に本気だすか。
既存の魔法を適当に改良してる時に偶然出来た六つの魔法を俺は禁術と呼んで、よっぽどの事が無い限り使わないようにしてきた。これから清先生のパチモンを地獄に落とす魔法はそんな禁術の一つ。
「な、なに余所見してるんだな、舐めてるんだな」
振り下ろされた木山の右腕を掴んで止めると同時にその魔法は発動する。回復魔法が極端に下手くそな俺が、細胞を活性化させ延々と分裂と再生を繰り返すようイメージした過剰回復魔法。
俺が触れている腕から、木山の身体が紫色に変色し膨れ上がっていく。
「身体中の皮膚から筋肉、血液、内臓、全ての器官が癌細胞に変えられて行く気分はどうだい?」
骨腫が急速に進行して脆くなった骨は自壊し、眼球は溶け、身体中を紫色の膨張した肉塊に変えられた木山は穴という穴からドス黒い血を流して畳の上で痙攣している。
「言い忘れてたけど、お前そのまま自然には死ねないからな。延々と壊死と再生を繰り返すだけの肉塊になったんだ。幸せだろ」
物言わず痙攣するだけの肉塊と化した木山の横では菱山組組長、宮前権三郎が腰を抜かしていた。あらあら、おしっこまで漏らしちゃって、お爺ちゃん大丈夫ですか〜?
「それから、さっきから気配消して俺の事を観察してる奴、多分上級悪魔だろ。大人しく逃げたら追わないでいてやるぞ。どうする?」
「そうさせて貰おう。だが、私を逃した事を君は後悔する事になるよ」
隣の部屋から妙な気配がすると思ったら、陰気臭い顔をした悪魔が一匹捨て台詞を残して逃げて行った。
「さてさて、それじゃ宮前組長さんよ、楽しい楽しい東北旅行と洒落こもうぜ」
その日、日本最大最強の広域指定暴力団、菱山組の組長と若頭が忽然と姿を消した。
怖いですねえ、恐ろしいですねえ。
こんばんは、シモヘイです。
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