第四話 とある使い魔の郷土愛
「お前ら、留守番してろって言っただろ?」
苦々しく笑って振り返って見ると、そこには見慣れた二人の幼女が立っていた。まるで悪役を見るような目で俺を見つめながら…
「お兄さんはちょっとそこの理系男子大学生みたいな身体付きの吸血鬼さんとお話しなきゃいけねーんだ。香苗ちゃんも絵梨花ちゃんもさっさと帰って白石くんにアイスでも買ってもらって食べてなさい」
「お兄さん、他人を見た目でイジるのはだめですよ」
「そうよ、チンピラみたいな目つきしてる癖に自分の事は棚に上げて何言ってるのかしら?」
あれ、何で俺がここまで言われなきゃいけないのかな?そもそも、この女吸血鬼は菱山組の関係者で、松島組の構成員三人を襲って生気を吸ったんだよね?悪役だよね?何で俺が責められてるの?
「おい理系男子ちゃん、お前からも何か言ってやれ。何か俺が悪役みたいになってるじゃねえか」
「誰が理系男子よ、そもそも男子じゃないし、そこまでガリガリじゃないわよ!」
「そこはどうでもいいんだよ!もうちょっと敵っぽい行動取ってくれない?このままだと俺がお前の事を一方的に虐めてるみたいになってんだよ。風評被害は困るんですよ!」
つーか吸血鬼が泣いてんじゃないよ。向こうの世界じゃ夜の王族とか呼ばれてた種族だろうに。なんか見た感じ日本人っぽい顔立ちしてるからこっちの生まれなんだろうけどさ。
「はぁ、めんどくせえ。こんなとこで何時までも突っ立ってる訳にもいかねえし、その辺の喫茶店でも入んべ。ほらほら二人ともアイスでも食おうぜ」
香苗ちゃんと絵梨花ちゃんが腰を抜かした女吸血鬼を起こしてあげている。良かったね、お外でお漏らししてなくてさ。
「言っとくけど…今更逃げたり、その二人に危害を加えようとしたら一瞬でお前の事消すからな。比喩じゃなく消滅させてやる。わかったら黙って着いてきな」
「お兄さん暴君キャラ似合わないから辞めた方がいいですよ?」
「おじさんお金持って無いじゃない。どうせ喫茶店の支払いも香苗ちゃんか絵梨花にさせるんでしょ?甲斐性無い癖に格好付けるのもいい加減にしたほうが良いわよ?」
なんか目から汁が出てきたよお母さん。
「お金なら持ってますー、ちゃんと白石くんから預かってきましたー」
はあー(本日二度目のクソデカ溜息)
泣ーかしたー泣ーかした!って言いながら俺の周りをぐるぐる回る香苗ちゃんと絵梨花ちゃんを追い立てるようにして、駅近くのチェーンのコーヒーショップに入る。女吸血鬼は完全に諦めたのかハイライトの無い目でトボトボ着いてきた。
「んじゃ注文して来るからな。何がいい?」
「絵梨花はホットティーとガトーショコラがいいわ」
「私もホットティーにします。ケーキも食べたいですけど、お兄さんお金大丈夫ですか?足りなそうなら我慢します」
「……アイスコーヒー」
絵梨花ちゃんはいつも通りだな。
香苗ちゃんは…あんまり気使わないで。お兄さん泣いちゃうから。
それから吸血鬼!お前コーヒー飲むんかい!?
「コーヒーとか飲めんの?血しか受け付けないんじゃないの?吸血鬼なんだし」
「血とか飲んだ事無いですし…代々ずっと日本で暮らしてるから人間襲って血なんか吸ったら大ごとになっちゃいますし…」
それでいいのか吸血鬼。
「わかったよ。あったかい紅茶二つにチョコケーキ二つ、アイスコーヒーでいいんだな」
レジカウンターで注文を伝えて勘定を払い、受け取った品物を持ってテーブルに戻った。
「んじゃ色々聞かせて貰おうか。まず名前からか?」
「宵闇葵…」
ん、何処と無く厨二臭い名前だな。
まあいい。
「何処から来た?」
「東京。菱山から依頼を受けてS市に来ました…対立する組の人間と戦争になるから戦力として参加して欲しいって…」
東京ねぇ、
なーんかこの葵って女吸血鬼とは相容れない何かを感じるんだよなあ。
「おい、ちょっと身分証見せろ」
「い、嫌です…」
「いいから見せろ。さっきまで姉御キャラっぽい喋り方してた癖に、急にしおらしくなりやがって。それが素か?しょうもないキャラ作りしてからに」
「キャラ作りじゃないです。お仕事用なんです、って、何他人のカバンから財布取ってるんですか辞めてください!」
財布ゲット。お、免許あるじゃん。
どれどれ、俺の勘が正しければ…
「丸森よし江、二十四歳、お隣のY県在住…やっぱりY県民か!どおりで醤油臭いと思ったんだよ!それに何だよ宵闇葵って、よし江じゃねえか!」
「よし江って言わないで!」
「うるせえよ嘘ばっかり吐きやがって。だからY県民はダメなんだよ、お前ら勝手に芋煮とか言ってるけどあんな醤油味、俺は芋煮とは認めないからな」
「撤回してください!貴方達M県民こそ豚汁の事を芋煮って言うの辞めてくれませんか?味噌臭いんですよ」
おっと、相手がY県民とわかったら遠慮は要らねえな。
「味噌入れない芋煮とかありえねえだろ、舐めてんのか?」
「M県だと芋煮に芋入れない地方もあるらしいですね?それ豚汁と何が違うんですか?」
「すき焼きだかけんちん汁だかわからない物を芋煮って言ってるY県民には言われたくありませーん。バーカバーカ」
「アホー、チンピラー」
どんどんヒートアップする俺と女吸血鬼。
そりゃM県民とY県民が揃ったらこうなる。
そんな奥羽山脈を挟んだ二つの県の戦いはちょっとキレ気味の香苗ちゃんによって終止符が打たれた。
「話が進まないので二人とも辞めてください。よし江さん、質問いいですか?」
「葵って呼んでくれなきゃ答えないもん…」
「よ、し、江さん。ちゃんと答えてくださいね〜」
「は、はい…」
香苗ちゃんの額に青筋が浮いてる…
あんまり怒らせないようにしとこ。
***
東京在住の都会っ子吸血鬼、宵闇葵こと、本名丸森よし江が言うには、今S市に進出してきている菱山組の武闘派で知られる二次団体、鉄虎会とのことだった。
鉄虎会は現菱山組組長の宮前権三郎の出身母体で、現鉄虎会会長の津田篠太郎が菱山組若頭の重職に就いている。
要するに菱山組のナンバーツー率いる中核組織がS市に攻め込んで来たって訳だ。多分吸血鬼を雇って気が大きくなってたんだろうな。醤油臭いY県民で血も吸った事無くてちまちまエナジードレインで生気を吸ってるダメ吸血鬼といえど、腐っても吸血鬼。よし江一人いれば松島組なんか簡単に壊滅させられるだろう。松島組を潰してすぐにでも傘下に収める交渉ができるようにナンバーツーが自ら出張ってきやがったって事みたいだ。
「で、菱山はお前みたいな魔族や人化した魔物を何人くらい雇ってるんだ?」
「……多分私を入れて三人です。大して強くもない癖に威張っている脳筋のオーガが一人と、種族まではわからないですけど、私と同じかそれ以上の力を持った男が一人いました。二人ともS市侵攻作戦には参加していません。オーガの木山は宮前組長の護衛として関西の本部にいます。もう一人は私にはわかりません」
オーガみたいな脳筋魔族なんか問題にもならないし、もう一人もよし江と同クラスなら何とでもなるな。よし、都合良くあっちのナンバーツーがS市に来てる訳だし、速攻でこの喧嘩終わらせてしまおう。
もうね、明後日には香苗ちゃんと絵梨花ちゃんの小学校が始まっちゃうし、いくら認識阻害魔法が使えるって言っても小学校までついて行くのは俺の精神が持たない。
決着を付けるなら明日中だな。
俺はコーヒーを飲み終えてカップを置くと、近所に散歩に行くくらいの気楽さでよし江に尋ねた。
「んじゃ、ちょっと鉄虎会の仮事務所の場所教えてくれや。サクッとシメてきてやるよ」
こんばんは、シモヘイです。
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