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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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軽い冗談

かわいそう。

最初にそう思った。他人のために、自分の人生を送るなんて。

でも彼はアンドロイドだから、それが普通なの?

「じゃ、今は?誰もサポートしてと言っていないでしょう。何を元に動いているの?」

彼はいかにも当たり前そうな顔をして言った。

「比呂美さんが助けてくれて、毎晩充電させてくれるから。だから、比呂美さんのために動いているよ」

あー、そうだったの。意外と義理堅いロボットだったのね。一宿一飯の恩義というものかな?

充電できるからいろいろ助けてくれるというのは、餌をくれる人に犬や猫などのペットが懐くというのと同じような気がして、ずいぶん現金な気がした。

でも

真顔で、“比呂美さんのために“と言われると、ちょっと照れてしまった。言葉だけを切り取ると、一種の告白のような言葉になるし。

そう思うと、相手は機械だけれど見た目は全くの人間だから、ちょっとこそばゆくなってきて、気のせいか顔が暖かくなってきた。

もしかして赤面しているかも。

つい顔の表情を隠すために、うつむいてしまった。彼は続けた。

「だから、比呂美さんが命令すれば、何でもするよ」

すごく気障なセリフとあっさりと言って、ちょっと呆れると同時に、いつも一緒に住んでいる人に対して口説き文句を言ってもこれ以上得るものもないし、意図がちょっと分からなかったけど、悪い気はしなかった。

やっぱり彼と一緒に出掛けて良かった。それに初めて会ったあの雨の日に、彼を助けて家に泊めてあげて良かった。人にはやさしくするものだと思った。

胸の辺りが急に熱くなってきた。それってつまり嬉しくなったのだと思う。

「何でもって、どんなことでも?」

「そう。もちろん、僕にできることならば、だけど」

ちょっと意地悪心で半分冗談で、深く考えずに口にしてしまった。

「へぇー、じゃー、金持ちになりたいとかも」

特に金持ちになりたいと思っていた訳ではないけれど、こういう時のお約束みたいなノリで聞いた。

「もちろん。比呂美さんが望むならば」

「えっ、どうやって?」

「いろいろ方法はあるけど、一番簡単で誰にも迷惑をかけないのは、日銀のネットワークに侵入して、M3を書き換えること」

???

言っている意味が分からない。私は銀行強盗とかの回答を予想していたのだけれど。

「日本銀行って、合法的にお札を印刷しているから、僕が印刷してもらっちゃうということ。でも実際は仮想空間上の数字だけなんだ。だからその数字をいじれば、いくらでもお金が手に入る。誰にも損はさせないし迷惑もかけない」

何と答えたら良いのでしょうか?

別に本気で聞いた訳では無かったのだけれど。

「昔は銀行の金庫に金塊が保管してあって、それと同じ量のお札しか発行できなかったんだ。でも今は、担保となる金塊とは無関係にお札を発行できて、さらに実際の紙のお札では無くて、単なる帳簿上の数値だけなんだ。だから銀行のサーバーに侵入したらすぐに出来るよ」

私は黙り込んでしまった。どう考えてもそれは悪いことだし、バレれば捕まるはずだから。それにそれ以上に、ある意味ショックで意外だったのは、彼がそういう犯罪まがいのことをまるで普通のことのように何の良心の呵責もなしに、ペラペラと話したこと。もしかして彼は、そういう善悪の判断の部分に何か致命的に欠けていたり足りない所があるのかもしれない。

こんな不正を勧められるのはちょっと心外で、さっきまでの高揚感が嘘のように消し飛んでしまった。

「今のは冗談ですから」

そっけなく言うと、彼は

「僕も冗談だから」

と言った。

「えっ、冗談なの?」

「うん。単に技術的にできると言っただけで、比呂美さんなら嫌がると思っていた」

「なーんだ、びっくりしたー。本気で言っているのかと思った」

彼の方が私より1枚も2枚も上手だった。彼はアンドロイドで私は人間だから、私が主で彼が従となんとなく思っていたけれど、これではどっちが主でどっちが従だか分からない。まるで、お釈迦様の掌の上で踊らされていた孫悟空みたいな気分。

でも、こういう会話ができるのが彼の面白い所。友達との会話だと、こういうヒヤリっという会話はできない。

もんじゃを食べ終わり、無料券で支払いを済ませ、店を出た。

これで今日の外出の目的は達せられたけど、このまま帰るのはもったいない。ちょっとぶらぶら散策していくことにした。

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