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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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夜空の下で

「あのー、ちょっとお話ししたいことが」

「僕もちょうど比呂美さんと話したいと思っていたんだ」

同じことを考えていたと思うと、勇気付けられた。

「私、どんな涼くんでも、そのままで気にしないです」

もっとはっきり言わないと伝わらないかなと思ったけれど、はっきり言ってしまうのは恥ずかしくて、今の私にはこれが精いっぱいの表現だった。それは彼の変身後の外見についてでもあるし、最近不愛想になった彼の態度についてでもあった。私は単に彼に出て行ってほしくないと伝えたかった。

「うん、分かってる」

予想外にあっさりとした返事。

じゃ、何で私を避けている?もしかして、この間会った外人の女の子に何か関係あるの?

「この間の女の子、涼くんの知合いですか?」

「うん、そうらしい。僕は記憶がないけど、彼女はそう言った」

そっか。彼女が彼を粉砕機に突き落とそうとしたのは明確な意思があって、それには理由があった。その理由は彼の過去に彼女との間で何かあって、今の彼の雰囲気からはそれに心当たりがありそうだった。でも、それを私が聞いてよいものか、分からなかった。私は黙り込んでしまった。

どこまで立ち入って良いの?

「比呂美さんに、迷惑かけたくないし」

不意に彼が言う。

「私は全然、迷惑では無いです。むしろ涼くんがいて、とても楽しいし。それに何かあった時は心強いし」

「比呂美さんにはずっと生きていてほしい」

生きていて?死ぬ危険があるということ?

「産業廃棄場で会ったあの子、何をするか分からないから。絶対、また僕を狙ってくるし、その時に比呂美さんが巻き込まれるかもしれない」

「私は大丈夫ですよ。普通の人は経験しないような苦労とか、今まで何度も修羅場を潜り抜けてきたので。普通の高校生よりずっとタフです」

と強がってしまった。彼がこちらを見て、半分呆れたように笑った。

「比呂美さんって、面白いね」

あの外人の子がどんな子か知らないから、死ぬとか言われてもピンと来なかった。今の日本でそんなに無茶する人はいないし死ぬことは無いだろうと、漠然と思っていた。

彼が私のすぐ近く座りなおし、片手で私の肩を抱いた。今まで一緒に暮らしてきて、すぐ近くにいたけれど、こんなことをしてくれたのは初めてで、思わず身を固くしてしまった。でもすぐ隣にある彼の肩に頭を持たれ掛けたくなり、今ならもたれても良い状況だし、私も彼の好意に答えなければと、私の頭を彼の肩に乗せた。

なんか、とてもしっくりくる。

本当に幸せ。幸せすぎる。この幸せを彼にも分けてあげたい。

「私が涼くんを守ってあげます」

柄にもなく強気なことを言ってしまった。彼は力も強いし、走るのも早いし、高いところから飛び降りても平気だし、ネットに直接接続できて調査もあっという間だけれど、私以外に知り合いがいない。知り合いがいないというのはとても心細い。少なくとも私には誰かが必要で、それは学校の友達だったり、お母さんだったりした。そして彼の唯一の友達は私だけで、だから私には常に彼を守っているという自覚があった。もっとも彼の方はそれほど気にしていなかったりして。あと、現実的に私の家で充電しないとアンドロイドである彼の体が止まってしまうので、彼には私が必要だと思っていた。

「うん、ありがとう。じゃ、期待している」

彼は素直に受け取ってくれた。

「ひとつ、僕からも良い?」

「はい、何でしょうか?」

「その敬語使うの、止めてくれる?」

「えっ」

私は別に意識して使っていたわけではなくて、いつもの癖で彼に敬語を使っていた。そしてそれは誰に対してもそうだった。友達に対しても。友達も最初は変だと思ったかもしれないけれど、いつの間にか気にしなくなったみたい。誰からも何も指摘されたことはなかった。でもそれは相手に距離を感じさせてしまっていたはず。その距離感は自信の無さの表れと、相手に嫌われたくないという気持ちだった。彼はその距離感を無くしてほしいと言っている。

「はい、分かりました」

「あっ、それ」

私は慣れない言葉に少し抵抗を感じながら言い直した。

「はい、分かった」

彼がにこっと笑った。

自分でも信じられないほど気持ちが楽になった。ちょっとした言葉づかいだけで。無条件に自分が受け入れられた気がした。

上を見上げると、空には星が輝いていた。珍しい。駅前のネオンの光や街の明かりで、この辺りは夜でも明るいから滅多に星が見えないのに、今日は星空が見える。まるで私の気持ちを汲み取っているみたい。

何もかもこのままずっと続けばよいのに。そう思った。

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