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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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すれ違い

ことの始まりは2ヶ月ほど前にさかのぼる。

涼くんが私の家に住みつく、正確には夜に押し入れに収納して充電するようになってから、私たちはバイトや学校から帰宅後によく話すようになった。教科書をもの珍しそうに見るので見せてあげたり、ネットのニュースや動画を一緒に見ながらコメントしあったり。彼の独特な、でも素朴で要点をつく視点が面白かった。もちろんそれまでは帰宅後しても家に誰もいなかったからでもあるけれど。

でも2か月ほど前に、彼は粉砕機にかけられそうになった。結果的に私が助けたのだけれど、それ以来彼は私とあまり話さなくなった。彼がバイトから帰った後、今までなら私とその日あったことをいろいろ話すのに、今ではそのまま押し入れに直行し充電モードになってしまう。

最初は彼の変身後の姿を見てしまったから、自分を恥じているのかと思った。変身後の姿は皮膚のない骸骨のような骨格とケーブルや基板などの機械のかたまりで、中途半端に人の形に近いのでちょっと恐怖を感じさせる。でも、彼がそれを気にしているか分からなかったので、あえてそれを言い出せずにいた。

それとも体調、いや機械の調子が悪いのかなとも思った。こちらが声をかければ返事はもらえるので、何か怒っている訳でもなさそう。

ある日、私がバイトで夜遅く帰ると、いつもなら家にいるはずなのに彼の姿が見えない。押し入れの中にもいない。

もしかして、どこかへ去った?私に何も言わずに?

ものすごい絶望感に襲われた。今まで彼が傍にいることが普通だったから、いなくなるなんて思いもしなかった。最近ほとんど会話をしていなかったから、それが原因だと心当たりはある。私は立っているのがやっとという感じで壁に寄り掛かったけれど、すぐにへなへなと座り込んでしまった。

いざ彼がいなくなると、こんなにも自分が脆いなんて。

これからの自分の毎日の生活を考えるとぞっとした。学校やバイトから帰ってきて、誰もいない真っ暗な自宅。そして寝るまで誰もいない。以前はそれが普通だったから別に何とも思わなかったけど、一度彼との楽しい日々を経験してしまったから、再びあの何もない日に戻るのは絶望に近かった。精神的に持たなそうな気がした。

こんなことならもっと話しておくべきだった。今さら後悔しても遅いけれど。

その時窓の方からごそっと音がした。

何だろうと窓際に寄ると、上から音がした。屋根の上だ。

うちのアパートは屋根が低くて、ベランダの荷物の上に乗ると屋根に上れる。小学生の時は時々屋根に上って、お母さんに心配かけたことを思い出した。ベランダに出て上を見上げると、屋根に彼が座っていた。彼は空を眺めていた。

良かった。私の元からいなくなったのではなかった。

急に体中に力がみなぎる気がした。私も本当に現金だなあと、ちょっと自分が不甲斐なくなった。

「何しているのですか?」

声をかけると、

「うん、ちょっと」

最近の彼と同じく、相変わらず無愛想な答えだ。

ベランダのダンボールに足をかけて雨どいをつかみ、屋根に体を持ち上げた。それから四つん這いで屋根を上り、彼の隣に腰を下ろした。

座る位置の距離感に困った。遠くに座ると自分から距離を取ったように見えるし、近すぎると最近の2人のすれ違いの関係からは白々しく思われそうだし。

で、半人分くらいのスペースを開けて座った。

一緒に空を見て、といってもどこを見たら良いか分からなかったのだけれど、空を眺めた。

何か話さないと、と気持ちはあるのだけれど、何をどう切り出せばよいのか分からなくて、しばらく沈黙が続いた。でもこのまま何も話さず下に降りてしまったら、話す機会が無くなってしまう。私は意を決した。

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