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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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虫の羽音?

議員さんの顔が視野に入ってくる。思っていたより若い。30代後半から40代前半くらい?

ステージ台に上がると目の前にいるから、逆に視線を合わせにくい。ネクタイの結び目あたりを見つめる。

司会役の先生がマイクを議員さんの口元に近づける。議員さんが手にした丸まった紙を伸ばして読み始める。

「表彰」

よく響く声。マイクを通してさらにグラウンド全体に響き渡る。

「大宮寿能高校2年1組、矢野比呂美殿。貴殿は歴史的重要文化財の保護と保全に大変貢献しました。よって、ここにその功績を表彰します。令和○年○月○日、文部科学大臣政務官、漆丸伸二」

ぼーっと議員さんが読み上げる声を聞いている。

生徒全員の注目を浴びていて、かつ見知らぬ人の真ん前に立っているので、頭の中は空っぽ。

早く賞状をもらってステージ台から下りたい。

議員さんは賞状の文章を読み終わると、賞状を上下ひっくり返し私に向けて出す。私は受け取り、深々とお辞儀をする。すると議員さんが右手をこちらに出す。

「おめでとう」

あっ、握手を求めている。

一瞬戸惑ったけど私も右手を出す。

マイクでコメントを求められたりしないかしら。私、何も考えていなかったので。

おそるおそる右手を差し出す。

その時。

シュッ

左耳のすぐ近くで、音がした。音というより風圧?

蜂とか何か昆虫が飛び去ったのかな?

そして右手を前に出したけど、議員さんは握り返さない。というよりさっきそこにあった手が無い。

ぼーっとしていた視線を右手の先から少しずらすと、議員さんがステージ上にしゃがみ込んでいる。

なぜ?

でも、しゃがみ込んでいた訳では無くて、それからバタリとステージ台の上で横になってしまう。司会役の先生が覗き込む。

「大丈夫ですか?」

そして、議員さんの胸元に赤黒いしみが出来ていることに気付く。

「えっ、えっ、えっ、えっ。ちょっと、ちょっと、誰か来てください」

先生たちよりも先に、見慣れないスーツ姿の男の人たちが一斉に駆け寄る。あの人たちは議員さんのお付きの人だった。彼らは議員さんを揺り動かして胸の赤黒いしみに、そして同時に背中からも出血していることに気付く。

「救急車、呼んでください」

数人の先生が校舎へ走っていく。でもほとんどの先生は何が起こったか分からず、首を伸ばして覗き込むように様子をうかがう。近くにいた校長先生や教頭先生も為すすべもなく茫然と立ちすくんでいる。この時はまだ、のんびりとしたちょっとしたトラブルくらいの雰囲気。ほとんどの人は出血に気が付いていないため、もし過労で倒れたのであれば、救急車で運ばれた後このまま全校集会を続るつもりっぽい感じ。

お付きの人の会話が聞こえてくる。

「これ、撃たれています」

「えっ」

別のお付きの人が出血箇所を確認する。

「発砲者は?どこ?」

周囲をきょろきょろ見渡すが、犯人らしい人の姿は全く見えない。

その時初めて私ははっきりと認識する。議員さんは撃たれて倒れたと。音がしなかったから撃たれたという発想に行きつかなかったけれど、やっと状況が飲み込める。

そっか、さっき左耳のすぐ近くを何かが通り過ぎた気がしたけど、あれは弾丸だったのね。

とすると、私の後ろ側から、撃ったことになる。

私はステージ台の上に突っ立ったまま、後ろを振り返る。

少し離れた所にグラウンドに隣接して数件の住宅とマンションが2棟建っている。私の耳の辺りから議員さんの胸に当たったとすると、高い所から撃ったことになる。

するとマンションから撃った?どっちのマンションだろう?屋上から?それともどこかの一室から?

犯人の姿が見えるかも、と思ってマンションを注視する。もちろん人影は全く見えない。私がマンションを凝視しているのに、お付きの人が気付く。

「多分あのマンションだ。第2波が来るかもしれないから下ろそう」

お付きの人たちが、ぐったりした議員さんを担いでステージ台から下し物陰に移動させる。そして横たわった議員さんを囲みながら、ほぼ全員がステージの物陰に隠れるように腰を低くする。

ただ事でないことに、先生たちが察しはじめる。

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