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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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表彰式

「あーあー、マイクのテスト中」

夏の暑い最中のグラウンドに田中先生の声が響き渡る。グラウンドの端に湯気が立っているかのようにゆらゆらとかげろうが見える。校庭のどこかの木で、セミがミーンミーンと鳴いている。むせ返るような暑さ。

今日は私の高校の全校集会。

普段は体育館で行うのだけど、今回は体育館が工事のためグラウンドに変更になった。

全生徒が集まるのは学期の始めの始業式と終わりの終業式、そして毎月1回の全校集会で今日がその日。全生徒が学年ごとクラスごとに出席順に並んで立ち、普段なら私もその中のその他大勢の一人として30分くらいを過ごす。校長先生のお話から始まって、学校の方針や注意事項、事務連絡などが続く。

でも、ほとんどの話は私の右の耳から左の耳へ通り過ぎていってしまう。なぜなら生徒に必要なことは帰宅前のホームルームの時間で再び先生から話があるから。だから私はついつい別のことを考えてしまう。例えば、今日家に帰ってから何をしようかとか、週末はどう過ごそうかとか。普段の全校集会は私にとってみんなと並んで立っているだけで良いとても気楽のものだった。

でも、今日は違う。そう、いる場所が違う。今日はステージ横の長テーブルに座っている。目の前にはズラッと自分の方を向いて並ぶ大勢の生徒の集団。なんだかみんなに注目されている気がして、恥ずかしい。

ステージと言っても、グラウンドで組体操などの際に先生が号令をかける時に使う高さ1m縦横2m位の小さな金属製の台。その周囲に折り畳み式の長テーブルがいくつか並んでいて、3人席の端っこに私はちょこんと座っている。

強い日差しの中、動かなくても汗がじわっと体中から吹き出してしまう。そよ風をわずかに感じる。グラウンドだから砂埃っぽいけど、とても心地いい。

私は夏が好き。暑いけれど開放感があるから。それに子供のころを思い出す。真っ青な大空を背景に純白の入道雲がニョキニュキっと立ち上がり、その下で虫取り網と虫かごを持って虫取りをした記憶がある。多分セミだった。あの頃は家の周りもまだ空き地が所々あって、よく空き地で遊んでいた。

ふっと我に返る。周りに誰もいないから、つい自分だけの世界に入ってしまった。

周囲を見ると、先生たちはジャージやらラフな服装でなんだかんだで忙しそうにしている。それに今日はちょっと見慣れない数人のスーツ姿の男の人たちがいかめしい雰囲気を醸し出しながら先生たちを遠目に見ている。彼らとは別に大きなカメラを抱えた人が数人グラウンドの後ろの方にいる。今日の全校集会の取材に来た地元の新聞社の人たち。普段は来ないお客さんのために、先生たちはいつも以上に作業が多い。先生たちの作業が一段落するとステージの周りに集まり始める。左右を確認して隣の先生と適度に距離を取りながら横一列に並ぶ。私のいる机の隣の席に、教頭先生が座る。

えっ、ここ教頭先生の席!

そしてさらにその隣に見慣れない年配の男の人が座る。横顔は全く見おぼえない。ゆっくりとグラウンド全体を見渡す落ち着いた雰囲気。わずかにこちらに向いた時顔の一部が見えて、もしかして、と思い当たる。

校長先生かも。

エーー、自分がこんな所にいて良いの?

でもさっき学年主任の先生から、ここに座って待っていて、と言われたし。

キィィィィーーーーン

マイクの共振音が響く。

「只今より、全校集会を始めます。まず、校長先生からお話があります」

司会役の先生は持ち回りで全校集会毎に交代するので、今日は1年担任の女性の先生がマイクを取る。その先生の言葉で、私の2つ隣の人が立ち上がりステージ台に向かう。

やっぱり校長先生だった。

校長先生はステージ台に上ると、スタンドのマイクの高さを調節する。

「みなさん、こんにちは」

生徒の方からぼそぼそっと”こんにちは”が返る。それらが治まるのを待って言葉を続ける。

「いつもの全校集会では私が最初にお話をしていますが、今回はその前に大変良いお知らせがあり、それを皆さんにお伝えしようと思います」

あー、とうとう来てしまった。

「我が校の生徒が、大変立派な振る舞いをしたということで、表彰を受けることになりました。そしてその表彰ために、文部科学省の方から政務官の方がわざわざ当校までお越しくださりました」

そう言うと、校長先生はステージの反対側の長テーブルに腕を差し伸べる。そこに1人の男性が座っている。

「ご紹介します。文部科学省大臣政務官であり、衆議院議員、漆丸伸二さんです。どうぞ、こちらへ」

その男性はおもむろに立ち上がると、グラウンド前面中央のステージ台の階段を上り始め、同時に校長先生が下りる。

入れ替えに司会役の先生が丸い筒とマイクを持ってステージに上り、筒から丸まった紙を出し議員さんに手渡す。

教頭先生がマイクを手にする。

「2年1組、矢野比呂美」

「はい」

出来るだけ大きな声で返事をする。そして、一歩一歩ステージ台を上る。

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