忠告
私は涼くんを持ち上げると、2つのローラーの境目に沿って横に進み、端まで来ると粉砕機から出る。
床に涼くんを寝かすと、同じように、外人の女の子も運び出す。
これからどうしよう?
でも、ちょうど良いタイミングでブレーカーが落ちて助かった。
涼くんを再び揺らすと、うっすらと目を開ける。
「大丈夫ですか?」
「うん。バッテリー切れ。充電したら元に戻る」
「良かったです」
じゃあ、家まで涼くんを担いで帰ろう。ちょっと遠いけど、最初に会った時も、私は彼を担いで帰ったから、多分運べる。
で、もう一人。この外人の女の子はどうしよう?
見た所、落ちた時に頭を打って気を失っているよう。
話し方や、涼くんを突き落とそうとしたりとか、なんか怖そうな人だった。
起こすか迷う。このまま彼女はここに寝かせたままで、私達だけ帰るという方法が最初に頭に浮かぶ。
でも、彼女は私とほぼ同じ年か、2,3こ上くらいで、ここに置きっぱなしは悪い気がする。
ちょっと揺らしてみる。
「ううーん」
彼女は微かに声を出す。気が付いたみたい。
それから、目を開けて私の顔を見て少し身構えて、周りを見渡す。
「大丈夫ですか?」
ムッと不貞腐れたような顔をして、顔を背ける。
「気を失っていたみたいなので、ここまで運んでおきました」
返事をしないので、どこか体の具合でも悪いのかもと顔を覗き込んだら、
「何?醜い顔でしょう?」
確かに顔の右半分に、ひどい火傷の痕がある。昼間に見かけた時はファンデーションで全く分からなかったけど、今はそれが取れて、月明かりでぼんやり見える。
「いえ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくて」
「国に帰れば、これは名誉の勲章よ。戦った証だから」
あっ、そうなんですね。
憎まれ口をたたけるということは、もう大丈夫かな。
「じゃあ、お先に帰ります」
私は涼くんを肩に担ぐとドアに向かう。
「ちょっと待って」
私は振り返えって、彼女と目が合う。何か彼女は言いたいことがあるのかなと、しばらく待つと、
「やっぱり今回は良い。制御端末があれば、いつでもそれを自由にできるから」
言っている意味が分からず、私は首をかしげる。もう帰って良いのかしら?
「今日の所はあなたに免じて、ESは許してあげる」
どう答えて良いか分からない。
「泥沼にはまりこむ前にあなたも気を付けた方が良いわ。それは人の心に巧みに入り込んできて、無しじゃいられなくするようにプログラムされてるから。まあ、すでにあなたは手遅れみたいだけど」
工場の外に出ると、少し離れた所の住宅もみんな真っ暗。ブレーカーが落ちたのではなくて、停電みたい。
結局、停電は数時間後に直り、ネットのニュースでは原因不明と出ていた。
涼くんは充電したらいつものように元気になった。
でも何で、私たちがピンチの時に、ちょうど良いタイミングで停電になったのだろう?もちろんそれで私たちは助かったのだから、良かったのだけれど。