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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
タタールの記憶
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粉砕機の上で

「分かった?これが本当の姿」

確かに涼くんの本当の姿は、人とは呼べなくて単なる機械であり、それも不気味な機械には違いない。

私は涼くんとの過去を思い出す。

池袋での火事とか、京都の下水道や地下水脈とか、いろいろ助けてもらった恩がある。そして何よりも、一緒に九死に一生のようなかけがえのない経験をしてきて、こんな経験を一緒にできる人、ここまで私のために行動してくれる人、私を思ってくれる人は彼以外にはいない。

その時に、外見はどんな影響を私に及ぼした?

多分全く関係なかったと思う。

私は、物事を外見の綺麗さだけで判断している訳では無い。むしろ外見は、実は私にとってどうでも良い部類に入ると気付く。

そう、外見がいかにも機械の涼くんでも、私にとっては唯一無二で必要なんだ。

今、ここで私が引いたら、彼女は多分涼くんを粉砕機に突き落とし、もう二度と涼くんとは会えない。

だから、それは私にとって、あり得ない選択。

「人間じゃないというのは、知ってます」

私はタラップに手をかけると、一気に登り、機械や配線がむき出しになり、ロボットそのままの涼くんの腕をつかむ。

「でも、私にとっては必要なのです」

彼女は驚いた顔で私を見つめる。

「涼くんは、私をいろいろ救ってくれました。ピンチの時に命を救ってくれただけでなく、金銭的にも。でも、そういうのだけじゃなくて、彼がいて初めて、白黒だった毎日が色付いたのです。彼がいないと私の毎日は何もないのです」

しばらくその子は私を見ていたけれど、やがてぼそっと

「あんた、病気だよ」

と言うと、涼くんを押して粉砕機に突き落とそうとする。

落とされないように、私は涼くんの腕を捕まえる。彼女は涼くんを突き落せないので、私の手を振りほどこうと、私につかみかかってくる。

彼女が手に持っているリモコンのような機械のせいで、涼くんは自分の意志では全く動かず、押されたら反対に倒れて、引っ張ればこちらに倒れるという風に、完全に私たちの為すがまま。

私は涼くんの腕を引っ張ってタラップの端に戻ろうとするが、彼女は逆に私たちをタラップの中央部分に引っ張り、3人でもつれ合う。タラップは幅約50cmで一人がやっと通れる程度で、手すりは片側だけ。

その狭いタラップの上で、押したり引っ張ったりしているうちに、バランスを崩す。

あっ、と思った時はもう遅く、3人そろってタラップから滑り落ちる。

フワッと宙に浮いて、下にはトゲトゲの付いたローラーが2つ、狭間に引き込むように回っているのが見える。そのローラーがスローモーションのようにゆっくりとこちらに近付いてくる。

あそこに挟まったら、私の体はグシャグシャに押し潰されて確実に死ぬ。

私はとっさに手を伸ばし、何でも良いから何かにつかまる。運良く何かが手に触れた。タラップの下の支柱だ。

もう一方の手は無意識に涼くんの腕をつかんでいる。そして、涼くんのもう一方の腕に外人の女の子が必死にぶら下がっている。

その子のすぐ下、10cmとか20cmとかの下は、ちょうどローラーの噛み合わせ部分で、今にも彼女の足は巻き込まれそう。あんなのに巻き込まれたら、肉はもちろん骨だってあっという間にバラバラに粉砕されてしまう。

私は片手で涼くんと女の子と、そして自分の体重を持ちこたえなければならず、さらにこの後どうすれば良いか、全く展望がない。ただ、耐えるしか方法がない。

すぐに手が痛くなってきて、支柱を持っている手が滑りそう。

私が助かるためには、涼くんの腕を放さなければならないけど、それでは涼くんが粉々に粉砕されてしまう。それは嫌だ。

誰か助けて!

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