EMP
私は彼に好意を持っていた。それは彼がどこか抜けていて、周囲の流れに無頓着で、場にうまく溶け込めなかいけど、あっけらかんとした楽観さがあったから。
一方、私は今いる集団にそつなくなじんだように振る舞えるけれど、心の奥底では誰にも心を開いていなかった。だから常に重苦しさを感じていた。
だから、自分と正反対のESに魅力を感じていた。表面的には正反対だけど、心の中は似ていると勝手に思っていたから。一緒にいると、私に欠けている部分を埋めてくれるような感じがしたから。
でも、ESは人間ではなくてロボットで、彼のそういう行動は性格の表れというよりは、プログラミングの不備だったのかもしれない。
どう考えたらよいのだろう?
そして、敵なのに、このまま助けてもらって良いのだろうか?それは敵を許すことになってしまうのではないだろうか?
「ちょっと待って。私を下ろして」
「でも、医務室はまだ見つかってないよ」
「とにかく下ろして」
彼は地面に私をゆっくり置いた。やけどの右半身が地面に接すると、激痛が走って思わず叫び声をあげた。
「大丈夫?」
私は返事をしなかった。
気のせいか、彼は少し悲しそうな顔をして、為すすべもなく私を見つめていた。
こういう場合は、どう行動したら良いのだろう?じっくり冷静に話し合うべき?それともはっきりと敵意と憎悪感を示すべき?
「私とあなたは、立場が違う」
彼は私が言いたいことをあらかた理解した様だった。
「あなたはアゼルバイジャン側で、私はアルツァフ・アルメニア側」
彼は黙ったままだったけど、私は続けた。
「あなたには何回も命を助けてもらったけど、やはり私は許す訳にはいかない」
戦争の当事者は過去のしがらみや恨みなどがあるから、敵対する動機はある。でも他の国の人は何を考えて戦争に参加するのか不思議だった。無関係の人たちを大量に殺して、良心の呵責などは感じないのだろうか?
「あなた、自分のしたことが分かってるの?」
「EMPのこと?」
「そう」
「誰にも危害は加えていない」
「加えている、大災害よ。あなたのせいで、アゼルバイジャン軍が私達の国を占領してしまった」
じれったくなって、つい大声で怒鳴ってしまった。
「でも、これが僕の存在理由だから」
彼はあっさりと答えた。
話し合えないと思った。
話し合って改心するのであれば、罪を償う気持ちがあるのであれば、まだ言葉で責める意味はあったが、ここまで断言されると話し合いは無駄に思えた。
EMPという爆弾として作られたロボットに、その存在理由の是非を聞いても答えられる訳がない。