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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
タタールの記憶
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出生の秘密

彼はこの攻撃を事前に知っていた。また、実は人間ではなかった。

医療センターに私を置いたら彼は去ってしまう。彼についての疑問は、今しか聞くチャンスが無かった。

「何で、ここにいるの?日本から来たと言っていたけど、何しにこの国に来たの?」

「会社の指示で来た。実際の現場での実験」

「会社?あなた、働いているの?」

「いや、会社で作られた試作品、エンジニアリングサンプル。略してE.S.」

ESとは、そういう意味だったのか。

「何の会社?」

「ロボットの開発、製造。日本の武蔵重工業っていう会社。でも本当は日本には居たことは無いんだ」

「どういうこと?」

「僕は実際にはシンガポール子会社で作られた。日本の法律は、武器輸出の規制が厳しいんだ。でも経営陣は世界の巨大な武器市場の魅力に抗しきれなくて、海外に現地法人を作り、外国の武器製造会社と合弁することによって、法の目をくぐり抜けている。僕の日本の記憶は全部、実体験を伴わないコピーされたもの」

記憶だけあって実体験が伴わないとは、ネットで動画を見てその場へ行った気になるようなものなのかもしれない。

もし全てがそんな記憶なら、根無し草みたいでかわいそうと思った。

「何でそんな重要なことを、話す気になったの?」

「君は僕にとって、初めての友達だから」

「初めて?そっか、今までずっと工場の中にいて、出てきたばかりなのね」

「うん」

かわいそうな人、いやロボット。

話しながら、彼は付近の建物や臨時のテントを覗き込んで、誰か医療関係者がいるか探した。でもまず、医務室がどこか分からない。誰かに聞こうにも、ほとんどの人が火災現場の消火に向かい、誰もいなかった。

「君を医務室に置いたら、もう、お別れしなければならない。事情が変わったから早く帰れと連絡があった」

何気なく聞き流していたけれど、さっき武器と言った?

「武器?何の武器?」

「EMP」

「えっ、EMPって、新型爆弾って言われている、あのEMP」

「そう。僕はEMPなんだ」

意味が分からない。爆弾って円筒形のイメージだったし、それに爆発したら粉々に吹き飛ぶんじゃないの?

私は理解不能そうな顔をしていたのだろう。彼が続けた。

「人型EMP。自分で敵国の中枢まで、さりげなく近づき、そこでEMPを発動させる。だから限りなく人と思われる、人ではないと疑われないことが求められる。それも実験の一つだった」

「何で生きているの?爆発したんじゃないの?」

「EMPは電磁パルスを発生させるだけだから、爆発はしない。ただ、ものすごい電力を使うから僕の内蔵バッテリーが干上がってしまう。再充電用のバッテリーを泊まった宿屋に用意しておいたのだけれど、その中に不良品が混ざっていて、再充電できなかった。そういう場合、機密保持のため自爆することになっていて、そうしようとした時、君に助けられた」

それは、ESがステパナケルト周辺の停電の原因ということ?

そしてその停電で、私たちのアルツァフ軍の指揮系統が麻痺して、その間にアゼルバイジャン軍が一気に占領してしまった。

私の頭はこれ以上考えることを止めたがっていた。

考えれば、彼は敵だということが分かるから。

そして、同時にそれを認めたくない自分がいた。

私にとって、初めての同類とも呼べるような人、いやロボットだったのに。

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