ドローン捜索機
翌日、お母さんは昼頃にお店に戻った。
ESが突然押し入れから飛び出してくるのではないかと私は心配だったけれど、それは杞憂に終わり、結局押し入れからは物音一つしなかった。
お母さんが玄関から出ていくとすぐに押し入れを開け、中をのぞく。
ESはまだ目をつぶって寝ているみたい。
「もう大丈夫です」
と小さな声で話しかけると、彼はゆっくりと目を開ける。
なんか眠そう。
のそのそっと出てきて周囲をきょろきょろっと見渡して、その素振りは普通の人みたい。
彼は伸びをすると、言った。
「フル充電できた」
それから窓際へ行き、外を眺める。近くの公園の森の木々が見える。時々野鳥が飛んでいる。
何かを考えているみたい。
仕事のこと?それともどこかに仲間がいて、その人たちのことを思い出している?
私も彼の隣へ行き、窓から外を眺めながら口を開く。
「私、まだ言っていないことがあって」
「それは男子が苦手ということ?それとも父親がいないということ?」
「なぜそれを?」
私は後者のつもりだったけど、前者も当たっていた。
「昨日、僕を運ぶときに体がこわばっていたから。もう一つの方は、室内に全く男の気配が無いから」
「そう、気付いていたのね。確かにうちは母子家庭なの。お母さんの収入だけでは足りないから私も夜だけ働いてるの」
「別に僕には関係ないけどね」
そう聞いてホッとする。変な目で見られるもの嫌だけれど、同情もされたくなかったから。
「この辺りに、電器屋ある?」
「駅前には、大きなお店がいくつかあるけど」
そう言うと、彼は窓からひょいッと飛び降りて
「電器屋行ってくる」
と走って行ってしまった。
しばらくすると山ほど電器屋の紙包みを抱えて戻ってきた。
ぴょんと荷物を持ったままジャンプすると、彼はまた窓から入ってくる。
袋からたくさんの箱を取り出し、さらに箱からいろいろな機械を取り出す。見たところラジコンみたい。それらを部屋の床一面に広げて何かを一心不乱に組み立て始める。
何を作っているのか興味があったけれど、話しかけられそうな雰囲気ではなかったから遠巻きに眺める。
やがて縦横50cmくらいのX字の機械の端に4つの上向きのプロペラが付いたものが出来上がる。X字の中心の上面に太陽電池のパネルが載っていて、下面に数本のアンテナのような金属棒が付きだしている。
私は宿題をしながら横目でチタチラと様子を眺めていた。
彼は数時間かけて4つのX字の物体を作る。
それから1つの物体を手に取り窓際へ行き、物体のスイッチを入れるとブーンという音とともにプロペラが回り始めた。
「お前は南だ」
彼はそう言うとその物体を窓からポーンと放り投げる。物体は一瞬ふらっと斜めになったが、すぐに体勢を持ち直し空高く南の方へ飛び去って行く。
次の2個目の物体も同じように放り投げ、今度は北へ。残りもそれぞれ東西に飛んで行く。
「クリスタル探索用のドローン」
彼は言った。
「ドローン?」
「うん。クリスタルはある特定の周波数の電磁波に対して発振するんだ。だからドローンでその電磁波を出して発振波からクリスタルの位置を探す。ドローンは太陽電池で自家発電するから半永久的に飛行できるんだ。もちろん夜はどこかに着陸して休憩するけど」
「それでクリスタルの場所が分かるのですか?」
「クリスタルの近くで電磁波を出さないと発振しないから、その時のドローンの位置を僕に送ってくる」
それから彼はまた窓辺に行き、今度は上の雨どいに手をかけるとぴょんと屋根に上り、そこで座ってドローンからの発見信号を待った。
せっかくいろいろ彼と話ができると思ったのに、彼には全くそんな気はないみたい。
もともと仕事が終わるまで家に居たら都合が良いよ、という意味のことを言って家に居てもらったから、彼にしたら仕事のことしか考えていないのかもしれない。
ちょっと残念だなあ。一緒にいれば自然と会話が進み、その結果理解が深まって仲良くなれると思ったのに。
私は仕方なく宿題を始める。
夕方になり少し薄暗くなっても彼は屋根から降りてこない。心配になった私は窓から乗り出し屋根を見上げると、まだ彼はそこに座っている。
「ドローン4台じゃ、足りなかったかも。せいぜい50mしか電磁波は届かないから」
「今日はもう家に入ったら?」
彼は諦めて窓から入ってくる。