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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
タタールの記憶
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火の海

どれだけ時間が経ったか分からない。

意識が戻ると、視野がやけに狭く、薄暗かった。

ここはどこだろう?

上に何か重いものが載って、横になって押し倒されているというのは分かった。

頭のすぐ上に板のようなものがあり、その上は全く見えない。

左右は大きな柱のようなコンクリートの塊に囲まれていた。それは、天井の梁だった。

そうだ、私は担架を運ぶ最中に管理棟に逃げ込んで、爆発の衝撃で天井が落ちてきたんだった。

状況を把握し、早速抜け出そうとした。

でも、体が動かない。手足は動くけど、この場所から這いずり出ることが出来なかった。

足首が何かに挟まれていた。

誰かに手伝ってもらわなければ。団長は大丈夫だったのだろうか?

周囲を見渡すと、梁の向こうに血まみれの手が見えた。節くれだった特徴から団長の手だと分かった。手より先は、梁や崩れた壁の瓦礫が邪魔になって見えなかった。

「団長、団長」

声をかけたけど、全く反応が無い。

足元を見ると、担架の手すりの先端が瓦礫の間からわずかに覗いている。担架は完全に瓦礫に埋まってしまっていた。気の毒だけど、担架の負傷者が今は死者になっているのは確実だった。

とにかくここから抜け出さなくては。

でも、私の上の天井板や梁はとても重く、私一人で持ち上げることは不可能だった。さらに足首に何かの瓦礫が乗っかっていて、抜け出せない。

足首の角度をいろいろ変えたり、力ずくで引っ張ってみたりしたけど、全く無駄に終わった。

相変わらず建物の外では、爆発音が響いていた。まだ、燃料タンクや補給車が燃えているのだろう。

その内、何か変なにおいに気が付いた。灯油だった。

給湯室のボイラーの灯油タンクが壊れ、中身があふれ出し、それがジワジワと私の方へ流れてきていた。

私の少し手前で、灯油は水溜まりを形作りつつあった。やがて水溜まりは決壊し、灯油の帯が私の方へ延びてきて、私の体の右半分はどっぷりと灯油に浸かってしまった。

早くここから抜け出さないと、灯油に引火したら焼け死んでしまう。

そう思って足を抜こうとしたけれど、足をはさんでいる瓦礫は重くて、全く動かなかった。

管理棟の隣の燃料タンクで再び大爆発が起こり、火花が四方八方に散らばり、そのうちのいくつかが崩れた壁の穴から管理棟の私のいる廊下まで飛んできた。

その中のひとつが灯油の帯のすぐ近くに落下した。

灯油の帯に火が燃え移ったら、あっという間に火がこっちまで伝わってくる。

なんとかしなくては。

私は足首を抜こうと、必死に頑張った。

でも、神は私を見放した。

火の付いた破片がパタッと灯油の帯に倒れた。

一気に火は帯を伝わってきて、私の右半身を包んだ。

熱い。

そう思ったのは一瞬で、その後は突き刺すような激しい痛みが、体の右半分を襲い、熱風で息が出来なくなった。髪の毛がチリチリと音を立てて燃えていった。意識がもうろうとしていく中、このまま死ぬんだなと漠然と思った。

嫌だ。

死の直前になって、凄まじい恐怖感が襲ってきた。

今まで頭の中では、死ぬ覚悟ができていたつもりだったけど、いざ死が目前に迫ると本能的に拒否反応を示した。多分、生物として頭の奥底、いや遺伝子レベルの防衛本能なのだろう。私がこんなことを思うなんて意外だった。でも今さらそう思っても遅い。体が動かない以上、焼け死ぬしかないのだから。

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