到着
「おーい」
遠くから、私達を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、生き残った民兵の人達だった。彼らは走ってこちらにやって来た。
「敵の増援部隊が来る前に、この村を抜けよう。首都防衛隊の基地まで行けば、敵も追っては来ないだろう」
夕方になり、周囲は暗くなり始めていた。
私はESと一緒に、村から走って逃げる民兵団の後を走った。
村から離れ、川を越えると、アルメニア・アルツァフ合同軍のバリケードが見えてきた。
「止まれー」
警備の歩哨が銃を向けるとともに、声をかけた。
「我々は、アルツァフの民兵だ。合同軍の増援に来た」
団長が大声で叫んだ。
「ちょっと待て。確認する」
その歩哨は無線で本部と何言か話した。
「よーし。通れ」
私達はバリケード内に通された。
正規軍の基地だけあって、武器や装備は豊富にあった。地対空ミサイル、ブークM-1や、重戦車T-72、自走式対空砲2K22、燃料補給車は何台もあった。
これだけあれば、そう簡単に敵は近づいてこない。
「やっと着いた」
「ヤッター」
皆、口々に安堵の言葉を吐いた。ここまで来るのにかなりの苦労があった。途中で死んだり、負傷した人も少なくない。
もちろん、今後にどんな作戦に参加することになるか分からなくて、もっと危険で危ないことは、当然いっぱいあるだろう。
でも、最初の目的である、首都ステパナケルトのアルメニア・アルツァフ合同軍の基地に到達することは出来て、みんなその達成感を感じていた。肩を抱き合ったり、ハイタッチしたり。
団長が一人一人みんなに握手して回った。私の所にも来て、
「あんたも、よく頑張ったな」
と、声をかけてくれた。
私はESに助けられたから、彼のことを紹介したく、ESに声をかけた。
彼は少し離れた所にいて、遠慮するように手を振って、どこかに歩いて行った。
走って追いかけて、
「みんなに紹介するわ」
と言うと
「いいよ。僕は外国人だから」
と答えた。
「誰もそんなこと、気にしてないわ。あなたはすごく私達に協力してくれた」
「僕のことは気にしなくて良いよ。むしろ、ここまで送ってもらって、それだけで感謝している」
「あなたって、本当に謙虚なのね」
「実は、疲れて寝たいだけ、なんだ」
思わず、クスッと二人で笑った。こんな時でもユーモアがある。
宿泊所は、軍が借りきっている建物で、広い部屋に、ベッドが多数並べてあった。
男女のエリアが別れていて、部屋の真ん中でカーテンで仕切られている。
ESは落ち着くからと言って、男のエリアの一番隅のベッドに潜り込んだ。その時は気付かなかったけど、コンセントの近くだった。
「おやすみ」
声をかけると、彼はベッドの中から手を振った。
私は女のエリアのカーテンを開け、空いているベッドに横になった。
もちろん簡易ベッドだけれども、二日ぶりに熟睡できた。