自爆ドローン
途中の休憩地で、他の団員と輪になって座って、水分を取った。
みんなの雰囲気は暗かった。
今から約30年前も、アルメニア人とアゼルバイジャン人は戦争をしたことがある。その時は、私達アルメニア人はロシアの後ろ楯があり圧勝だったと聞いた。でも、今回は違う。完敗だった。
みんな実感として、それが分かっていた。
「3日前に停電があっただろう。あれ、敵の新兵器らしい」
年配の誰かがボソッと話し出した。彼は30年前の戦争の参加経験者だった。
「えっ、そうなのか?」
「さっき、無線係が指令部から聞いた。EMPっていう電気製品だけを壊して、人間には無害な爆弾だと。この辺りも含めて首都周辺の電気製品は全滅だ。それで、指令部も3日間機能せず、敵の侵入を許してしまった」
「ガセだろ?そんな兵器、聞いたことが無い。大体、アゼルバイジャンがそんなものを開発できる訳がない」
「どこか外国が後ろに付いているんだろう。それに、一番最初にアルメニア・アルツァフ合同軍の防空レーダーがほぼ全て破壊されたんだが、それは自爆ドローンによると、彼らは言っている」
「自爆ドローン?何だ?」
「爆薬を満載した無人の小型の飛行機だ。まあ、ラジコンみたいなものだが、操作が複雑なので、高度なコンピュータが必要だと」
「それも外国企業がらみなのか?大体、対空レーダーは車載の移動式もあるのに、位置が分かるのか?」
「その数日前に、アゼルバイジャンの大型輸送機が大量に領空侵犯したんだ。図体ばかりでかくてのろまで、間抜けな連中だと思ったんだが、あれは囮だったんだ。敵機が来たから、友軍はレーダーをフルに始動させたが、その敵機は攻撃用ではなくて、レーダー電波を受信して、こっちのレーダー位置を探る目的だった。おかげでこっちの防空システムは丸裸。そこに自爆ドローンが大挙してやって来た。やつらは小型で多数だから、今までの地対空ミサイルでは狙えないんだ。あっという間に、次々にレーダーや基地を爆破していった。もう空に何が飛んでるか分からないし、何が飛んできても何も出来ない。制空権が無いのを良いことに、さらに自爆ドローンは橋やトンネル、発電所などのインフラも攻撃した。その後、兵員輸送ヘリが空から歩兵を運び、要所を簡単に占領していった」
聞いていた全員が頭を抱え込んだ。
「てことは、戦争が始まる前に、そのEMPという爆弾と、ドローンの制御用のコンピュータをすでに国内に持ち込んでいたという訳か?」
「そうだ。もう戦争のやり方が昔とは全く変わってしまったんだ。偵察して、爆撃して、塹壕掘って、戦車と歩兵で突撃なんて、時代遅れなんだな。ミサイルすら出番が無いんだ」
北上して東方戦線に近付けば、確実に戦闘に巻き込まれる。市街戦になれば、負傷または戦死の確率はぐんと高くなる。
私達は、色々な意味で時代遅れであり、不利であり、負けつつあった。多分私達の先には明るい未来はない。現状維持すら難しい。
良くてじり貧、悪くて国の消滅による捕虜か難民。