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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
タタールの記憶
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低体温

家の中は散らかっていた。避難命令が出たときに慌てて必要なものだけ持っていったのか、アゼルバイジャン兵が強奪したのか、それとも空き家になってコソ泥が物色したのか。

ベッドを見つけて、少年を、と言っても私と同じくらいの年に見えるけど、彼を横にした。

「何か食べる?」

リュックを開けて、携帯食を取り出した。

彼はうっすらと目を開けて、首を横に降ると、また目を閉じた。

飲み物を出したけど、飲もうとしなかった。

顔色は悪くないから、私はあまり心配していなかった。

改めて寝顔を間近で見た。

アジア人を直接見たのは初めてだったけど、私の想像と全く違っていた。

私の想像では、もっと細長い切れ目で、顔が全体的にのっぺりしている印象だったけど、目の前にいる彼は、とてもバランスが取れている。

カッコいい。

そして、肌が信じられない位にキメが細かく綺麗でツルツル。一点のニキビ痕やソバカスもない。

思わず、そっと触ってみた。

冷たい。まるで鉛みたいに。

「このままだと、死んじゃう」

低体温症で体温が下がってると思った。

部屋を暖めたいけど、暖炉はない。室内で火を起こすと、夜だから敵に見つかるかもしれない。

他の部屋から毛布を集めてきて、彼にかけたけれど、効果はありそうもない。

「どうしよう?」

昔、おばあちゃんから聞いた話を思い出した。寒くて死にそうな時に、体をくっ付けて、お互いの体温で暖め合ったと。

私はためらいもなく服を脱ぎ、下着だけになって、彼のベッドに入った。

彼の服も脱がせて、ピタッと体を密着させた。ひんやりと冷たい。

でも私は衛生兵だから、人を助けるのが使命だから、少し位のことは我慢しなければ。

私の体温で彼が元気になりますように。


気付くと、朝になっていた。

揺らしてみて、意識があることを確認すると、

「食べ物探してくるね」

と、言い残して、外へ出た。

周囲はとても静かで、昨日の紛争は嘘みたい。前線はどこか他の場所に移ったようで、敵軍も友軍も、民兵団のみんなもいなくなっていた。

水溜まりに垂れた切れた電線から、時々火花が飛び散っていた。

「あれっ、停電直ったのかな?」

近くの民家に入り、食料を探した。缶詰やら干し肉とか。

背中にライフルを背負っているので、あまり多くは持てない。

民兵団がどこに行ったか、合流しようと歩いて探し回った。

半日掛りで村の外れの小高い丘まで行き、そこから周囲を見渡したが、人の気配がない。

結局、食料を抱えて、元いた民家に戻った。

家の電気も復帰していて、冷蔵庫がガーと音を立てて、動き始めていた。部屋のライトも点いた。

私はベッドに寝ている少年の枕元に寄ると

「何か飲む?」

と聞いた。彼はやっぱり首を横に振る。

「何か食べないと、体が持たないよ。ほら」

口元にパンを近付けたが、口を開けない。

外はだんだん暗くなってきた。今日もここで泊まるしか無さそうだった。

壁にイコンが掛かっているのに気付いたので、私は神に祈った。

「主イエスキリストよ、今にも消え入りそうな、この少年の命を救いたまえ、アーメン」

それから私は明日の計画を考えた。

いつアゼルバイジャン軍が攻撃してくるか分からないし、この少年も医者に見せないといけないから、一刻も早く、民兵団または友軍と合流する必要がある。

この辺りの少し北にアルツァフ国防軍の基地があったはず。

明日はそこに向かおうと考えた。

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