再会
その頃、涼くんと外人の女の子は、古い町工場に入っていた。
天井は高く、二階建ての屋根くらいで、壁はトタン板。
女の子は振り返り、涼くんを見る。
「私のこと、覚えている?」
「いいえ、記憶に無いです」
彼女は少しムッとする。
「ソフィア、って、聞き覚えない?」
「無いです」
涼くんの受け答えが、少し変。
全く抑揚がなく、まるで機械が話しているみたい。
体は全く静止したまま、話すときに口だけ動く。
ソフィアと名乗る少女は、苛立ちを通り越して、怒りが顔に表れ始める。
「都合良く忘れるな!」
彼女が涼くんを蹴ると、彼は横にドタっと押し倒される。
彼が立ち上がろうとすると、彼女はその前に立ちはだかる。
「これでも、思い出さないの?」
そう言うと、ポシェットからハンカチを取り出し、顔をさっと拭く。
ファンデーションが取れ、地肌が露になる。
それは、初めて見る人には、目を背けたくなるような光景。
彼女の顔半分は、紫や薄茶色の大きなシミやアザがあり、さらに肌がきれいな曲線ではなく、でこぼこしている。典型的なやけどのケロイド。
顔だけでなく、首や肩までケロイドは続いている。
「リモートモードにしているから、嘘はつけないはず」
ポケットから、一昔前の携帯のような小さな端末を取り出して、覗き込む。
「作戦毎に毎回記憶を消すと、マニュアルにあったけど、最後の作戦で今までの全部の記憶を取り返したのはずなのに。まだ記憶をインプットしてないの?」
彼女は涼くんの髪をつかむと、彼の頭を持ち上げながら、顔を覗き込む。
「まだ、記憶に無いとか、言うの?」
涼くんは、彼女の顔をじっと見る。
「キャッシュ領域に、ごくわずかにあなたに似た顔の断片があります。しかし、いつどこでどのように、あなたと会ったかの、正確な記憶はありません」
「じゃあ、私が思い出させてやるよ」
涼くんの髪から手を離し放り出すと、彼女は話し始める。