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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
雨の日のランデブー
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自己紹介

「なぜ、家賃を立て替えてくれたのですか?」

「なぜ?理由なんかないさ。ただ払いたかったから。全額やるから、返さなくて良い」

「そうはいかないです。あんな大金、受け取れません」

「命の恩人の女の子から金銭を受け取るなんて、そんな野暮なことできないよ」

私は小さな声で思わず呟く。

「義理堅い方なんですね」

「義理とか人情とか、そういうのが人にとって人生のスパイスだろ?スパイスのない人生なんて、食べて寝るだけの退屈な時間潰しじゃん」

彼は続ける。

「僕は疫病神みたいなもんさ。僕と居ると余計なトラブルに巻き込まれるから。そんな僕を助けた君の方こそ、珍しいと思うよ」

そう言う様子がどことなく寂しそうに見えた。

なんで疫病神なのだろう?

私は彼に興味を持ち始めた。人間ではないと言いながら、どう見ても人間だし、それにどこか寂し気で、哀愁を感じさせる雰囲気に惹かれたこともある。

「もし差し支えなければ、あなたは?どういう方ですか?」

「方?人に見えるけど、人じゃないから」

「人ではない?じゃ、何ですか?」

「人型自走EMP、つまり電磁パルス爆弾」

「電磁パルス爆弾?」

私は繰り返す。

「電磁パルスを発生させて周囲の電子機器を破壊するのが主な仕事」

私はまじまじと彼を見る。どう見ても爆弾には見えなかった。

「人型なのは、観光客の振りをして敵国の首都や主要施設まで行くため。空から弾道ミサイルとして飛んで来たら、レーダーにキャッチされて撃墜されるだろ。だから人知れず侵入するには人型が一番都合が良いんだ」

「敵国?どこの国から来たのですか?」

「今はシンガポールのPMC、民間軍事会社の所属。ある情報を詰め込んだ多値型クリスタルを奪還するために、それを輸送する貨物機に忍び込んだのだけれど、ちょっと手違いがあって日本上空で輸送機から落ちた」

「飛行機から落ちた?それで助かった?」

彼はうんと頷く。

「僕は汎用強化型だから。電磁パルスって意外と使い道が無くて、それだけだと顧客が付かないんだ。だから何でも出来てかつ丈夫というのも取柄なんだ」

再びまじまじと彼を見る。別にふざけているようには見えなかった。彼はいたって真剣に話しているように見える。

「所詮戦争の兵器さ、どう?軽蔑した?」

「いえ、軽蔑なんて、全然。むしろこんなに親切にしてもらったこと、今まで一度も無かったので」

そう、今までこんなに親切にしてもらったことは無かった。

小学校の時、給食費が払えなくて、私だけ職員室に呼ばれたことがあった。教室に戻った時、クラスメートの同情と軽蔑と半分好奇が混ざった視線が自分に向けられ、それ以来私の周りには誰も来なくなった。

とにかく惨め。惨め過ぎた。

今、あの時と同じような状況だけれど、彼はそんな素振りを全く見せない。かといって反対に情けをかけている訳でもない。そうすると今度はより一層惨めさを感じてしまう。

この人は私を対等に扱ってくれている。こんな人は滅多にいない。

私にとって彼は、家賃を立て替えてくれた優しい人であり、対等に私を扱ってくれた人であり、どこか自分を卑下している人であり、守ってあげないといけないような弱い人に思えた。家賃を返さなければならないのはもちろんだけど、離れたくないという気持ちをはっきりと認識できた。それは普段人恋しさを感じていたからかもしれない。

毎晩、バイトから帰ってくると、自宅で一人っきり。毎日のことだから慣れているけれど、時々ギュッと胸を締め付けられるような寂しさに襲われることがある。

だから、誰かが私の家に居て、会話ができるというのが、素直にうれしい。この状態がずっと続いてほしい。

「立て替えてもらった家賃は絶対返しますから」

「まあ、好きにすれば。返したければ返せば良い」

「本当?じゃ、それまでどこに?」

彼は少し考える。

「野戦も大丈夫だから、橋の下とか木の洞とか」

「もし良ければ、私の家にいてもらって構いません。いえ、その方が返済の際に探さなくて済むし」

自分でも少しこじ付けがひどいとは思うけれど、自分で話しながら確かにそうだと思った。

「じゃあ、そうさせてもらう」

えっ、こんなに簡単に家にいてもらえるの?

断られると思っていたので、急にワクワクしてくる。

そうとなれば、まずは自己紹介をしなくては。

「私、矢野比呂美といいます」

「僕のことは、みんなはES3と呼んでいる」

ES3?なんか味気無い呼び方。いかにも物みたい。

「試作品の3番目の意味」

まじまじと彼を見る。

以前、博物館で人間そっくりのロボットを見たことがある。たしかアンドロイドと呼ぶらしい。

反対に、アンドロイドそっくりの人もいて、本人がそのことを売りにしていた記憶がある。

そう考えてみると、あり得るかもしれない。

じゃー、本当にアンドロイドなんだ。

そっと彼の手を触ってみて、肌の感触を確認する。

適度な温かさと、精巧な皮膚のしわ。

手の骨格の形も人間のそれとほとんど同じ。

次に、何気なく顔を覗き込む。瞳の奥なら何か違うかもしれないと思ったけど、人間の瞳と差が分からない。なぜなら、人間の瞳をそんなに良く観察したことがないから。

よく出来ている。本物みたい。

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