追跡
そう思うと、私は道路の先の角を見る。もう二人の姿はない。
数分前だから、走ってだと追い付かない。
自転車にまたがり、T字路の角までダッシュする。
左右を見るが、どちらにも二人の姿は見えない。
「どっちに行ったんだろう?」
ここで逆方向に行ったら、もう二度と涼くんに会えない。
途方にくれて、焦りだけが募る。
すると、右の道の向こうから同じクラスの子が自転車でやってくる。
それほど仲が良い訳ではなくて、顔は分かるくらいの間柄。
彼女は私を見つけると、軽く手を振って通りすぎようとする。
「ちょっと待って下さい」
声をかけると、彼女は自転車を止めて、不思議そうな顔をする。
「二人連れ、見なかったですか?金髪の外人の女の子と、同じくらいの年の男の子」
彼女は少し考えてから、答える。
「あー、いたいた」
じゃあ、こっちなんだ。
「その後は、どっちに向かってましたか?」
彼女は指差して、おおよその場所を教えてくれる。
「ありがとうございます」
彼女はきょとんと不思議そうな顔をして、何か私に聞きたそうだったけど、私は教えてもらった右の道へ自転車を走らせる。
その道は用水路沿いに北へ走り、交通量の多い道と交差する。
わざわざここに来たということは、西の繁華街には向かわないはず。東と北には、芝川河川敷の防災畑が広がる。
どっちに行ったのだろうと、周囲を見渡す。
道沿いには、北も東も人影は見えない。
ここに来るまでに、どこか狭い路地にでも入った?
外人だから、この付近の住宅に入ることは考えられない。旅行客用のホテルもないし。
もしかしたら、私がさっきのクラスの子の説明を聞き間違えたかも。
絶望感に襲われる。
考えてみれば、走って見つけるって結構難しいはずだし、元々無理だった。
諦めるしかないの?
涼くんのいない日々を想像できない。いつの間にか、彼がそばにいるのが普通になってしまっていた。
彼がいなかった頃の生活、それは一言で言うと空虚。その当時は気付かなかったけど、日々の生活に追われて、学校では友達とも適度な距離を保ち、それなりにうまく回っているように見える。
そして、一度、誰か頼りになる人と一緒に時間を過ごすことを覚えてしまったら、もうあの頃には戻れない。戻りたくない。
でも、涼くんはどこにもいない。
私は仕方なく自転車を反転させ、帰路に着こうとする。
と、北東の防災畑の遥か向こうに二人の小さな後ろ姿が見える。
はっきりは見えないけど、多分そうだろう。
自転車をダッシュする。
夕方近くなり、薄暗くなり始める。
彼らは私鉄高架下のトンネルに入り、見えなくなる。
この辺りは一本道だから、追い付けるはず。
私は少し遅れてトンネルに入る。
トンネルを抜ける。が、二人がいない。
道の左手は河川敷、右手は住宅に混ざって倉庫や町工場が並んでいる。
前方に見える一本道には、全く人影が無い。
とすると、この付近の建物に入った?
どうしよう?
私は思案にくれてしまう。