おみくじ
参道を歩きながら、さっきの子は何だったのだろう?と思う。
境内に入り、本堂でお参りする。お賽銭も忘れずに。
それから、おみくじを引く。
“大吉”
ちょっと嬉しい。
涼くんにもおみくじを薦める。
「こんなの、ただの確率だから、意味無いよ」
また味気ないことを言う。
「一種の遊びですよ。吉が出たら、嬉しいじゃないですか?」
「凶が出たら?」
「凶は出ないものです。次からおみくじを引いてもらえなくなるので、神社経営にマイナスになりますから」
「そんなものなんだ」
彼もおみくじを引く。恐る恐るおみくじを広げる。
”大凶”
初めて見ました。
本当にこんなことがあるんだ。
涼くんは特に気にしていないように見える。
反対に、私の方が少し恥ずかしい。出ないと言って、すぐに出たから。
いい加減なことを言う、軽はずみな人と思われそう。
「じゃ、そこの針金に結ぶと良いですよ」
「なんで?」
「不運のおみくじをその針金に結ぶと、その不運から逃れられるので」
少し離れた所にある、おみくじ掛けを指さす。地面に垂直に立てられた2本の木の棒の間に、数本の針金が横に渡してあるもの。
そこにはたくさんのおみくじが結んである。
「まあ、いいや。記念に持って帰る」
それから私たちは、境内を出て家に向かう。
今日ずっと、一緒に参道を歩いたり、おせんべい屋さんに行ったり、神社にお参りしたりして、誰も涼くんがロボットだと気付かなかった。
そして、私もつい、誰か人間と一緒に歩いているという錯覚に陥る。
幸せ。
ふと、そんな思いが頭に浮かぶ。
幸せって、意外に身近にあるものなんですね。
ただ、近所に散歩に行って、何気ない会話をして、ただそれだけだけど、そんなことがとっても幸せに思える。
誰かと一緒に時間を過ごす、これがそんなに大事なことだと初めて気付いた。
頭では涼くんがロボットだと分かっているけれど、もしかして今一番の友達と言えるかもしれない。
最初は、ちょっと口が悪くて、態度が悪くて、無愛想で、デリカシーに欠けて、性格的に友達になれるという気がしなかった。
でも、池袋の火事とか、誘拐されて京都に行った時とか、本当はとても頼りになる。
そして、一緒に危ない目や、反対に恥ずかしい目にも遭ってきたから、涼くんには自分を偽ったり、妙に取り繕ったり、良い面だけ見せようと思わずに、素直にそのままの自分を表せる。
愚痴を言いたい時には愚痴を言えるし、黙っていたい時は無理に会話を作る必要がなくて、黙っていても気を遣わない。
どんな時も涼くんは私を見捨てずに、助けてくれる。この安心感。
そして、私的には、結構彼と気が合う。
それは彼がロボットだからかもしれない。人間ならば感情があるけれど、涼くんは怒るとか軽蔑するとか、そういう負の感情が無い。
まだ私が彼のそういう面を知らないだけかもしれないけれど。
良い友達になれた。
他に仲の良い友達は何人かいる。でも、皆同性の女子。
異性の男子ともこんな友達になれるというのは、私には大きな発見。
もちろんロボットだけれども、こんなロボットが世の中に存在するのであれば、もっと早く知り合いたかったな。
このような友達は、数はいらない、むしろたった一人で良いかもしれない。
たった一人、そのままの自分を理解してくれて、自分も相手に何でも包み隠さず話せるような友達がいれば、それ以上求めたらバチが当たります。
そのたった一人に出会えるか、出会えないか、が結構大きい。
私は運良く涼くんに出会えたけど、同じクラスの子を何人か思い出してみると、運悪く出会えてないような子もいる。
だから、私は涼くんを大切にしなければならない。