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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
タタールの記憶
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焼けただれた少女

「今朝、すごくリアルな夢を見た」

学校の帰り道、涼くんが言う。

私のバイトがオフの日は、涼くんのバイト先のコンビニに立ち寄り、シフトが終わるのを待って、一緒に帰る。

「夢?ロボットも夢を見るのですか?」

彼はちょっと首をかしげる。

「まあ、人間の夢と同じものだと思う。使わなくなった記憶領域に、普通は次の新しいデータを上書きするけど、上書きされるまでは古いデータの断片が残っているんだ。またはキャッシュが悪さしているのかもしれない」

「キャッシュ?」

「よく使うデータは、記憶領域とは別に、頭の中でアクセスしやすい所に保管しておくんだ。僕の過去の記憶は、何かのきっかけでほとんど消えているけれど、キャッシュは残っているかも」

「もしかして、過去を思い出すきっかけになりそうですか?」

「そうかもしれない」

彼は続ける。

「夢で見た場所が実在して、過去にその場所に行ったことがあるのかもしれない」

「どんな場所だったのですか?」

「山の奥地で、街並みはヨーロッパみたいな所。ちょっと寂れていて、かなり田舎」

「ヨーロッパ?私には全然分からないです」

そうか、涼くんは外国から来たのか。

どうやって来たのだろう?それに、何で公園に倒れていたのだろう?

記憶が戻るのは良いことだけど、ちょっと寂しい。

京都の地下で藤原道長の財宝を一緒に探して以来、涼くんに親近感を急に抱き始めている。

ピンチの時に救ってもらったというのもあるけれど、それ以上に希少な経験を一緒にした仲間という気持ち。

この状態がこれからもずっと続くと勝手に思っていた。

だけど記憶が戻れば、彼は本来いるべき場所に帰るだろうか?もしかしたら本心は戻りたいのかもしれない。

そして、そういう気持ちを彼が持っていたとしたら、つらい。

現実が急に目の前に迫ってくる。

それらの思いにとらわれて、私は無口になってしまう。涼くんは私が無口であることに無頓着だから、私にとって気を遣わずに付き合えて、気楽で良いのだけれど。

でも孤独感を感じるからこそ話したいのに、結局何も話さず帰宅する。


それから数日後。

涼くんは、いつもと同じように夜はスリープモードに移行する。

気が付くと周囲はがれきの山。家の壁は崩れ屋根は吹き飛ばされ、空は一面黒煙に覆われている。

壁の漆喰が剥がれて中のレンガが露出する。石張りの床に、壊れた家具が倒れて食器が散乱している。

横に視線を向けると、壁の割れ目から隣の家が見える。半壊し燃えている。

その時初めて家の中にいることに気付く。

壁に火が回る。崩れた壁の隙間から外に出ると、周囲の家は全壊し燃えている。

周辺に燃えかけた家財や崩れた家の一部が散らばっている。それらから炎が高く噴き上げ、もうもうと黒煙をまき散らしている。

家の前の小路を少し進むと、何かが地面に転がっている。近づいて見る。

人だ。全く身動きしない。

複数の銃創があり、その下にドロッとした赤黒い水たまりが出来ている。

少し離れたところに何かある。細長い木の幹みたい。

何かよく分からない、普段見慣れないものだから。よく観察してみると、それは千切れた人の腕と気付く。

はっとして周囲を見渡すと、腕だけでなく千切れた肢や胴体などが無数にあたり一面に散らばっている。男のもの、女のもの、老人から子供まで服装もいろいろ。一部焼け焦げているものや、まだ火が付いて燃えているものもある。

一体、何があったのだろう?

状況が全く分からない。

しばらく歩くと、うめき声が聞こえてくる。

声のする方へ歩いていく。崩れた納屋の壁の下にだれか倒れている。

急いで駆け寄ると、自分と同じくらいの年の女の子がいる。金髪で東欧系っぽい顔立ち。

怪我をしているのか、ぐったりとして動かない。

この人と知り合いだ、直感的にそう思う。今までの関係は全く思い出せないけど、前から知っているという感覚がある。

助けなければ。

抱きかかえて顔を正面から見て、驚く。

顔の右半分が焼けただれ、皮膚が少しずり落ちている。顔だけでなく服の右半分が燃えて、右手、右足、体の半分がケロイド状になっている。

口は力なく半開きで、目は閉じている。

「大丈夫?しっかりしろ」

声をかけると、彼女はゆっくりと目を開く。

そして、目の前の自分に気が付くと、カッと憎しみのこもった目つきになる。

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