地上へ
突然、大蛇の頭がこっちに突進してきて、パクッと大きな口を開ける。
上あごから巨大な2本の牙が生えている。鱗は真っ白だけど、口の中は真っ赤でしわくちゃで、ぬるぬるしている。そして、そのしわの奥に、底の見えない穴が真っ暗な見える。
私は目を閉じて、身を縮める。ちょうどその時、私のお腹に急にグッと負荷がかかる。それから全身に加速度を感じて、気が付くと御堂ははるか下にあり、宙に浮いている。
次の瞬間、またお腹にグッと力がかかり、それは涼くんが御堂上空の穴へ着地した衝撃と気付く。
はるか下で、大蛇が何事が起きた?と、キョロキョロっとして、上を見て私と目が合う。
涼くんは、私と天上さんを両肩に担いだまま、入り口の穴をくぐり、さっき来た横穴にでる。
「これで、ひとまず安心」
涼くんがそう言って、私を下ろそうとすると、空洞への穴から、さっきの大蛇が頭をにゅーっと突き出す。
「うわっ」
涼くんは再び私を肩に担ぎ、もう片方の肩に天上さんを担いで、一気に風上に向かって走り出す。
大蛇は横穴を私たち向かって追いかけてくる。
そのスピードが予想以上に速い。蛇って、こんなに速く進めるの?
私たちのすぐ後ろまで追い付いて、何度も口をパクッと開けて、食いつこうとする。
涼くんも、大急ぎでダッシュする。
横穴は、2人を担いで走れるほど、広くはない。だから、壁や天井が低くなっている箇所では、体をぶつけないように身を屈めなければならず、そうすると走る速度が遅くなる。
ジワジワ大蛇と私たちの距離が縮まってきて、次の狭い箇所で速度を落としたら、大蛇に追いつけれて食べられてしまう、となった時。
はるか前方に微かな光が見える。
と、大蛇は、突然追いかけるのをやめ、スルスルっと元の空洞へ戻っていく。
「はぁー、とりあえず助かりました」
涼くんも一旦休憩する。
「何で、引き返したんだろう?」
「強い光が苦手だったのではないでしょうか?」
私は歩いて行くことにし、涼くんは天上さんだけ担ぐ。
しばらく歩くと、だんだん、その光は大きくなり、まぶしくて目が開けられないほどになる。
明るさに慣れてきて目を開けると、洞穴の正面に、大きな1枚岩があり、その上の方の隙間から外の光が差し込んでくる。
この光の強さは、太陽の光。つまり、この岩のすぐ後ろは地上。
なんとも言えない安心感と、開放感。やっぱり地上が良い。
落ち着いてくると、鼻が利くようになり、かすかに草の匂いがする。
「もう地上?ですね」
「この目の前の岩が洞穴にふたをしているから、どける」
涼くんが天上さんを洞穴の床に下す。彼は完全に気を失っている。
1枚岩を押すと、岩はズズズズズーとずれて、人が通れるくらいの隙間ができる。
その隙間から見える風景は、どこかの森林の中。周囲は青々とした木々が連なり、足元には雑草が生い茂る。その雑草がちょうど同じくらいの背の高さなので、雑草なんだけどきれい統一されて見える。
どこかで小鳥の鳴き声がする。
今までの危険な状況とは全く正反対の、いたってのどか。
「今度こそ、本当に助かりました」
雑草の絨毯の上に、へなへなっと倒れ込む。
考えてみると、昨日?または一昨日に誘拐されてから、ハラハラドキドキしっ放しだった。
ここがどこか分からないけど、地上なら、どこかへ向けて歩けば、人のいるところに出られる。