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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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トラップ

「僕らはもう用無しみたいだから、帰ろうか?」

「そうですね。でも、山田さんの巻物を結局落としてしまったので、それを取り返さなくては」

暗闇の中で、涼くんがあきれ返っているのが、気配でわかる。

「まだ、そんなこと言ってるの?」

「借りたものは、返さなくては」

「君は本当に律儀なんだね。自分の命以上に人との約束を守るって、冗談抜きで感心する」

「だって、私にとって、それが全てだからです。私は涼くんみたいに強くもないし、頭も良くないし、存在感もない。涼くんみたいに一人では生きていけないのです。弱いのです。そんな弱い人は群れないと生きていけないのです。集団の中でしか居場所が無いんです。だから、私を受け入れてくれる人を大切にするのは、自分を大切にするのと同じくらい重要なことなのです。それに、山田さんが折角貸してくれたおじいちゃんの大事なライフワークを失くしてしまったら、本当に申し訳ないです」

彼はしばらく私を見つめている。

「分かった。君には僕を救ってくれた借りがあるから。君が山田さんの巻物を持って帰りたいなら、僕は従う。でも、巻物を、彼らは今は持っていなさそう。目の前に道長の財宝があるから、それを山田さんのお土産にしない?多分、考古学マニアにはとても貴重なもの」

「悪い人たちに取られてしまうのなら、研究目的の人の手に渡った方が良いです」

「じゃ、僕らも、あの門に入ろう」

彼はそう言うと、門に近づく。門の中に、3つの通路の入り口がある。

門の前で見張りをしている能面の2人が彼に気付き捕えようと掴みかかってくる。しかし、涼くんは二人の後頭部をちょんと叩き、あっという間に2人を気絶させてしまう。

彼が能面が付けていた無線機を取ると、やり取りされている音声が聞こえてくる。

”応答願います。A班、半数が落とし穴に落下”

”B班、壁から矢が吹き出し、数名負傷”

”C班、天井が落ちてきています。救出願います”

「わなが、あるみたい」

「わな?」

映画で古代遺跡や財宝の周りに、わなが出てくるのを、見たことがある。本当にあるんだ。

でも、わなと言っても、きっと昔の人の考えたものだから、脅かす目的の、ちょっとした小細工程度の物じゃないかな。

無線機の通信は、ちょっと大げさなのでは?

涼くんがいれば、多分大丈夫。

「どの通路が正解なんでしょうか?」

彼は通路の壁に手を当て、ちょっとの間、じっとする。

「何しているのですか?」

「音波で構造を調べてる」

それから、左の通路を指さす。

「この通路は奥の広間に通じている。その他はいろいろ複雑に分岐しているけど、全部行き止まり」

私たちは、左の通路に入る。等間隔で雪洞が点いているから、暗くはない。

荒削りの岩石がゴツゴツと出ていて、直径2mくらい。立って歩けるけど、足場があまり良くないから、ゆっくり進む。

通路は分岐あり、少しずつ上に行ったり下に行ったり、右に曲がったり、左に曲がったりで、段々方向が分からなくなる。

彼はどっちに行けば、目的地に着けるか分かっているようで、分岐で迷わず進む。

しばらく歩いていると、ガーーという小さな音が聞こえてきた。何か固いものが擦れるような音。でも、不吉な感じ。

私は立ち止まり、耳を澄ます。

音はすぐ近く、でもちょっと後ろ辺りから、聞こえてくる。

何だろうと、キョロキョロする。

「あっ、壁が」

私は声を上げる。

すぐ後ろの壁が動いている。それも両壁が通路の中央に向かって。つまり、両壁が近づいてきて、通路幅が狭くなっている。

私たちの後ろ側から順に狭くなってきて、その壁の動きが、段階的にじわじわと前の方へ伝わり、私たちの横の壁も迫り始める。

「挟まれるぞ、逃げろ」

彼が声を上げると同時に、私たちは走り出す。

この後、どんなわながあるか分からないけど、留まっていたら、両壁に挟まれるのは確実だし。

でも、壁の動きがかなり速い。

走って逃げても、真横の壁が迫ってくる。後ろを振り返ると、左右の壁が完全に付いて、人が存在できる隙間は無さそう。

壁がだんだん迫ってきて、幅50cmくらい。

前に2つの通路が見えてくる。分岐みたい。

私は分岐にギリギリたどり着き、涼くんのすぐ後ろで、両壁が閉じる。

「大丈夫だった?」

私はゼーゼー息を切らす。

「どうとか、大丈夫です。でも、びっくりしました」

「通路の構造を調べながら進んだ方が良いみたい」

彼はまた、壁に手を当ててじっとする。

「この辺りは何もない。ただの通路だ」

再び進み始める。

薄暗い通路に、二人の影が伸び、歩みと共にそれが移動する。

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