地下宮殿
本当にこの先に出口があるのかな、と不安になってきた時。
突如目の前に、巨大な空洞が出現する。
「ここ、広ーいですね」
天然の空洞?それとも人工に掘った物?
高さは10 m以上ある。とても高くて、懐中電灯の光が天井まで届かない。
何か見えないかなと、懐中電灯をあちこちに向けていると、ある方向に明らかに人工建造物らしき物が映る。
「あれっ、あれ、何でしょう?」
こんな地中深く人工建造物がある訳がない。
でも、小路はここまで続いていたのだから、もしかしたらある可能性もある。
「ちょっと、見てみませんか?」
彼を伴って、恐る恐るその建造物らしきものに近づく。
大きな門がそびえ立っている。まるでお寺の門みたいで、門の高さはほぼ天井までだから10m近くありそう。門は閉まっている。
近付いて門に触ってみる。
ひんやりと冷たい。
遠くから見ると、木で出てきてるように見えたけど、触った感じは金属、多分鉄だろう。
こんな大きな鉄の門、見たことない。
そして、その門の真ん中に、何か植物の葉っぱと花の紋章が彫ってある。
「あのマーク、何でしょうか?」
「下がり藤。藤原氏の紋章」
「藤原氏?」
藤原氏って、誰?
「ここが開けば、地上に出られるのですよね」
私はその大きな扉を押したり引いたりしてみるが、全く動かない。
「全然だめです」
涼くんの方を見る。彼なら人間離れした力があるから、開けることができる。
彼は扉を押してみる。全く動かない。
「ダメだ。重すぎる」
ショック
彼なら開くと思っていたのに。
「じゃ、どうしましょう?」
「何か、開ける仕組みがあるはずだけど」
彼は扉の周囲を見渡す。私も懐中電灯で探す。
扉を開ける仕組みのようなものは全く見当たらない。
扉の左右は天然の岩壁で、いかにも扉を開けるレバーや暇などの類は全くない。
ただ、高さ30cm位の石の仏像が無数に立っているのに気づく。
「とても開きそうにないです。元来た道を引き返すしかないですね」
と、言いかけた時、後ろの方から、ざわざわと複数の足音が聞こえ、地下水脈のトンネルの先が、ボワッと明るくなる。
「誰か、来る」
彼が私の手を取り、門から離れ、空洞の壁際の岩の隙間に隠れる。じっと息をひそめる私と涼くん。
しばらくすると、数人の群れがランタン片手に空洞に到達する。群れの人たちは一人を除いて皆、能面を付けている。一人だけ、なぜか場違いなネクタイ着用のスーツを着ている。
彼らは門の前に来ると、明かりで門を照らす。
「ついに見つけた。これが道長の財宝の隠し場所か」
「天上さん、彼らはこの近くにいます。発信機の電波が近くを差しています」
「ここまで来てしまえば、もうこちらのものだ。この場所を見つけるために、泳がせておいたのだから。この場所さえ見つければ、もう気にする必要はない」
発信機?
私は体を見渡し、肩、胸、腰や、ポケットの中とか、順に触る。すると、ポケットに小さな3cm位の薄いプラスチックの箱が入っていた。
「これ?」
小声で涼くんに言う。彼は私を見て、首をかしげる。
「これで、僕らを付けてきていたんだ」
彼は指でその箱を押しつぶす。ペキッと二つに折れて、バラバラになる。
彼らの会話から、スーツを着た男は、天上さんというらしい。能面の人たちのリーダー的存在のよう。
彼は胸ポケットから携帯を出すと、内部メモリに入れている古文書の画像をスクロールする。
「ここで、御堂関白記が役に立つ」
能面の数人に指示を出す。
「その石像を右向きへ回転させろ。そっちの石像を斜め左向きへ。最後に、あの石像を斜め右向きへ」
3つの石像の向きを支持されたとおりに回転させると、どこかでギシギシガタガタと音が聞こえる。
そして、ミシッミシッと蝶番部分から錆が落ち、ミシミシっと音を立てて、大きな鉄製の扉が開きはじめる。
この奥に財宝が山積みになっているのかも、と私はつい見入ってしまう。
でも、扉の向こうにあったのは、財宝ではなかった。
あったのは、3つの通路の入り口。
「何だこれは?」
天上さんと呼ばれる男が声を上げる。
「おかしい。この3つの通路のどれを進めばいいか、雲隠に御堂関白記も記述が無い」
普通に考えて、3つの通路のうち、どれか1つは財宝の部屋につながっていて、他の2つはつながっていない。
彼らはランタンから火を門内の通路の横にある雪洞に点ける。雪洞の火は次々に奥の雪洞に移っていき、通路の奥まで明かりが点く。
「うわっ、きれい」
思わず見とれる。
真っ暗な闇の中に、オレンジ色の雪洞が点々と、ずっと奥まで続く幻想的な景色。
天上さんと呼ばれる人は、門前に二人ほど能面を残すと、残りの能面を3班に分け、一緒に門の中に消える。