とりあえず自宅
いつもと同じように、バイト先のカフェから自宅のアパートへ向け、第2公園の中の小路を歩く。
第2公園とは、近所の広大な公園。第3まであって、全部合わせて東京ドームの15倍の広さ。
家への最短コースで、むちゃくちゃ広い公園の中に入ってしまうと、大自然に囲まれて周りの住宅が見えなくなる。
天気の良い日は、満天の星空が見える。星明りと月明りと、あと遠くの街の明かりで、外灯がなくても明るい。
でも、今日は雨なので、空はどんよりと灰色。街明かりも何となく暗い。
早く帰りたい。
じわじわとスニーカーの中に水がしみ込んでくる。
早足で家に向かって、ひょうたん池という調整池の外周の小路に差し掛かる。右手は雑木林で、左手の眼下にひょうたん池。雑木林の木の枝が小路の上に覆うようにして、ここは他と比べて薄暗い。
小路の様子がいつもとちょっと違う。
端に少し大きめの黒っぽい丸太みたいのが転がっている。
木が折れたのかな?
通りすぎようと近付くと、木の幹の先端が2つに分かれてる、まるで人の足みたいに。
恐る恐るよく見ると、足があって、手があって、向こう側に頭がある。
「人?」
思わず、後退りする。
回り道しようかな?
でも、倒れてる人を放っておくのは、薄情ではないかしら?
その人の服はびしょ濡れで、所々破れているけれど、生地がしっかりして新しい。
雨は容赦なく、倒れている人に降り付ける。
怪我か病気かも?
「あのー、大丈夫ですか?」
反応はない。
「救急車、呼びましょうか?」
「んーー」
返事?うめき声?
でも、なんか若めの声。
そっと近付いて顔を覗き込む。
うっすらと顔が見える。
「あれ?女の子?」
周囲の明かりで照らし出される顔の目、鼻、口、あごにかけての輪郭がなんとも言えないほど整っている。まるで彫刻みたい。芸術作品。
でも、目は閉じたまま微動だにしない。
もう一度声をかける。
「大丈夫ですか?」
小さな声で、パワー何々と聞こえる。
??
聞き間違い?
「一応、救急車呼びますね」
肩とあごで傘の柄をはさむと、カバンから携帯を出す。旧式の折り畳み式。119をしようとするが、電源が入らない。
「あっ、バッテリー無くなっちゃったんだ」
携帯が古いから、バッテリーが1日持たない。
家に帰って、充電して、119する?でも充電にすごく時間がかかる。その間、雨の中にこの人を放っておくことになるし。
辺りに他の人は誰もいない。
私の家は歩いてもうちょっと。
見た所、大きな怪我はしてなさそう。出血も無さそう。
家まで連れていって、ちょっと休んでもらっている最中に充電して119しよう。
「立てますか?」
傘をいったん地面に置き、その人の片腕を持ち上げ、私の肩に担ぐ。
ずっしりと重い。
肩に触れるその人の体は、どこも硬く、でも弾力的。
あまり他人の体って触ったことないんだけれど、こんな感じなのかしら?
顔がすぐ真横に来たので、チラッとみる。まだ目をつむっている。
もしかして男の子かも?
でも、体が接するほど近くにいるのに男子を感じない。
なぜだろう?
片方の肩に学校のカバン、もう一方の肩に人を担ぎ、その手で傘を持つ。
ちょっと重労働。その状態で、その人の足を引きずりながら歩く。
「大丈夫ですか?」
全く反応が無い。
公園を抜けて、住宅地に入る。少し歩くと、私のアパートが見えてくる。
アパートの階段を荷物と人を担いで登るのは初めて。一歩一歩が重い。
玄関を開け、その人を肩から下すと、そのまま床に倒れ込む。
見た感じ、骨折や出血はなさそう。
「単に疲れてるだけ?」
家に入り、携帯を充電ケーブルにつなぎ、バスタオルを取ってきて、その人に掛ける。
室内の明るい中で、改めてまじまじと、近くでその人の顔を見る。
今まで暗闇の中を歩いてきたからあまり見えなかったけど、体つきはスラッとして、多分男子だろう。でも、顔は女の子と見間違う。
年は私と同じくらい。どこの高校かしら?
服は制服ではなくて私服だけど、かなり丈夫な生地。でも、あちこちに破れた跡があって、さらに雨に当たって、びしょ濡れの泥だらけ。
彼を横にしたまま、すぐそばの食卓で私は宿題を始める。
宿題が終わり、気が付くと11時ちかく。
さっき助けた人を横にしたままだったと気付き、振り返る。
彼はまだバスタオルを被って、横になっている。
まだ携帯の充電は終わらない。いつも一晩かかるから今日中には無理だろう。
どうしようか考えているうちに、私も眠たくなりいつの間にか食卓で熟睡してしまった。