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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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逃走

その時、事務所のドアがガバっと開き、作業員風の人がこっちを驚いた顔で見ている。

私は学校帰りの制服のままだし、何より年齢的に私も涼くんもこの場には場違い。

気まずい雰囲気。

でも、私たちは何も悪いことはしていなくて、自分の物を取り返しに来ただけ、と思ったけれど、立派な不法侵入ではある。

その作業員は、駆け足で外階段をバタバタと降りると、大声で叫ぶ。

「泥棒だー、泥棒」

2階の事務所で、私は茫然とすると、涼くんが言う。

「まずい。逃げよう」

「えっ、そうなるのですか?」

涼くんが、作業員さんに合理的な説明をしてくれるものと思っていたけれど、そういうのは苦手だったみたい。

彼が私の手を取るので、私は2本の巻物を抱え込む。それから彼に続いて、早足で階段を降り、物陰へ回る。

何事かと、テントや他のプレハブ小屋にいた人たちがひょこっと顔を出す。何人かが、事務所の周りにガヤガヤと集まってくる。

パチッパチッと夜間照明が照らされ、敷地内が煌々と明るくなる。

「素直に出ていくという訳にはいかないのでしょうか?普通の人ならば、説明をすれば、きっと理解してもらえると思いますが」

「お人よしだな。能面の連中もここにいる。彼らがうまいこと言って、僕たちを引き取ったら、また元に戻るだろ」

あっ、そうだった。

彼らの車がここに来たということは、普通の人たちに自分たちが誘拐犯であると知らせずに、ここに混じっているということ。

それに、周りの人たちが、本当に誘拐犯の仲間ではないという確証がない。

「埋蔵文化財調査 - 京都市教育委員会」という看板も、嘘かも知れない。

結局、私たちは自力で逃げなければならない。

もっと暗闇で、人がいなければ、涼くんに抱きかかえられて、周囲の防音壁を飛び越えて簡単に逃げられる。

でも、こんなに夜間照明が明るく点いて、大勢の人に見られていたら、涼くんの人間離れしたジャンプを大勢の人に見られてしまう。

そうすれば、泥棒以上の騒ぎになる。

「こっちの方だ」

遠くから声が聞こえ、何人かが徒党を組んで、やってくる。

能面の人たちは誘拐犯だから、涼くんにやっつけてもらえる。本当はそれも出来れば避けたいけど、正当防衛としてギリギリ仕方がない。

でも、工事の作業員さんや、発掘作業の市役所の人たちは、普通の人だから、涼くんに手を出してもらいたくない。

そして、能面を外していると、両者の見分けがつかない。

だから、誰にも見つからずに、ひっそりと自力で逃げ出すしかない。

とても難しい。

涼くんが手を引っ張り、前を指さす。

「体育館の方は、照明が無い」

プレハブ小屋や、機材の後ろを通り、グラウンドの端に沿って、体育館に向かう。

機材の山から体育館まで少し距離があり、そこは平らで見晴らしが良い。

「腰を低くして、走ろう」

彼の後ろについて、私も一緒に走る。

「あっ、あそこにいるぞ」

遠くで声が聞こえる。

見つかっちゃった。

びっくりして、抱えていた巻物を2本とも落としてしまう。巻物は紐がほどけて、コロコロと転がり、帯状に広がる。

「どうしよう。落としちゃった」

取りに戻っても、もう一度丸く巻かないと、とても運べない。それには時間がかかる。

そうこうしているうちに、数人が走ってこちらに来る。

「もう放っておけ。後で考えよう」

彼がグイッと手を引っ張り、再び走り、体育館の裏に回る。

角を曲がると、はるか前方から光が近づいてくる。振り返ると、後ろからも光が近づく。

「挟まれたみたいです」

3方は背の高い防音壁、残りの1方は体育館で、こちらはもっと高い。

涼くんは周囲を見渡す。

地面の一角がコンクリート敷きで、直径1m位のマンホールがある。

彼はマンホールの蓋をひょいっと持ち上げる。壁面に梯子が付いているのが見える。丸い穴が垂直にずっと深く続いていて、底は真っ暗で見えない。

「入って」

入る勇気は無かったけど、彼の有無を言わさない強い態度に促されて入る。一時的に追いかけてくる人たちから逃げられれば、すぐに出るつもりだし、彼もきっと、そのつもりで促すのだろう。

私の上に、続いて彼が入り、マンホールの蓋を閉める。完全に真っ暗。

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