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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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脱出

「そして、比呂美さんと対面」

「大変なことに巻き込んでしまって、本当にすみません」

「それは良いよ。こういうの、慣れてる。漠然として記憶だけど」

そして、彼は私の手と足のロープを解いてくれる。

「じゃ、帰ろうか?」

「えっ、倉庫から出られるのですか?」

「こんな柔な建物、簡単に出られる」

彼は扉に両手をかけると、クイッと力を入れる。

ギィーブチッと音がして、鍵が壊れ、扉が開く。

ちょっと顔を出して、周囲に誰もいないことを確認し、私の手を引く。

郊外の小高い丘の中腹だった。そこの倉庫のような建物だった。

目の前には、京都市街のキラキラ輝く夜景が広がり、すぐ後ろは真っ暗な山が迫っている。

「街中まで行けば、安全だろう」

彼は、私をお姫様だっこする。

こうすると、ジャンプして速く移動できる。

彼は私をだっこして、林道伝いにすごい速さで市街へ向かう。この調子だと、すぐに京都駅について、そのまま家に帰れそう。

安心すると、ふっと彼らに取られた巻物を思い出す。

山田さんに返すものが無い。どう説明しよう?

ただでさえ落ち込んでいる山田さんを、さらに悲しませることになる。

なんとなく、山田さんと境遇が似ている気がして、他人事に思えない。折角おじいちゃんが大切にしているものを貸してくれたのに、それを失くしましたじゃ、本当に悪い。急に心苦しくなる。

「やっぱり、巻物、取り返したいです」

涼くんが急に立ち止まる。

「はぁ?」

「あの巻物、山田さんからの借り物だから。だから、取り返したいです」

「気は確かか?誘拐されて、脱出してきた身なんだけど」

「はい。それでも」

彼は頭を抱える。

「理解できない。命と巻物のどっちが大事?誘拐犯なんだから、何をするか分からない」

「でも、涼くんならば、出来ると思いました」

語尾が段々小声に尻すぼみになる。

彼は頭を抱えたまま、何も話さない。

言いたいことは分かる。きっと、甘えるな、頼りすぎるなと。

でも、山田さんに申し訳ない気持ちが大きい。

しばらく彼は動かず、考えているよう。

「比呂美さんには、いろいろ世話になってるかならー」

うんうんと無言で頷く。

それから、私を地面に下すと、ちょっと斜め上を見上げる姿勢でフリーズする。

静止軌道上の通信衛星に接続する姿勢。

「彼らの行き先が分かった」

「どこですか?」

「中京区の高校の建て替え工事現場」

「なぜ、そんな所へ?」

「さぁー?ただ、この辺りの監視カメラに写っている車で、僕が載せられた時刻に近い車を絞り込んで追跡すると、工事現場に行ったことが分かった」

「そんなことも分かるんですね」

「じゃ、さっさと巻物を取り返して、帰ろう」

彼は再び私を抱きかかえると、全速力で周山街道を南下する。夜中なので、あまり車通りは多くない。

市街に入ると、きぬかけの路を左に曲がり、一条通から京都御苑を突っ切る。

寺町通りに出ると、目の前にかなり広い敷地の工事現場がある。ここが高校の建て替え現場みたい。周囲は背の高い防音壁で囲まれている。

「ここで待ってて。僕が取ってくる」

最初は交番へ行くことを思いつく。

でも、どうやって倉庫から脱出したか聞かれると、涼くんのことを話さなくてはならない。涼くんの秘密は誰にも言いたくないし、バレたくない。

そうすると、一緒に行動した方が安全。

「一緒に行きます。誘拐犯に出くわした時に、私一人だと逃げられなくて、また捕まると、かえって足を引っ張ってしまうことになりますので」

「そっか、分かった」

彼は入り口の扉を押し開ける。鍵はかかっておらず、すっと開く。

校舎は解体工事中で、半分ほど取り壊されている。体育館など一部の建物が、まだ残っている。周囲に、工事用のプレハブ小屋やテントがいくつか立っている。

その一角に、地面を薄く丁寧に掘り返しているアリアがあり、「埋蔵文化財調査 - 京都市教育委員会」と大きく看板が出ている。

その周りに小さなテントがいくつかあり、その一帯はまだライトが付いて、数人が忙しそうに作業している。

作業している人たちは、さっきの誘拐犯のように能面を付けておらず、雰囲気もごく普通。多分、誘拐犯とは無関係の一般の作業員の人たち。

「こんな時間なのに、まだ大勢いますね」

「あの小屋だな」

私たちは人目に付かないように、テントや建設機材の影を通って、一番大きいプレハブ小屋に向かう。

1階は、倉庫。2階が事務所で、外付けの階段を上る。窓から中の明かりが漏れている。

彼がそっとドアを開け、中を覗く。

「誰もいない」

事務机やイス、ロッカーと棚がある。棚にはファイルや工事器具が所狭しと置いてあり、

棚の中段に、小型の金庫がある。

「あれだ」

彼は金庫に近づくと、片手を扉に密着させ、もう一方の手でダイヤルを回す。それから数回ダイヤルを左右に回すと、金庫が空く。

「そんなことも出来るんですね」

「ほら、巻物、3本あるよ」

金庫から彼が巻物を3本取り出す。

「どれが山田さんの物でしょうか?」

彼は巻物を机の上に広げる。最後の部分が汚れていないから、これは違う。

次の巻物も、綺麗なので、違う。

3本目がジュースで汚れているので、これが山田さんの巻物。

「では、これを返してもらいましょう」

「でも、汚れているから、もう一本おまけ付けるんだろ?」

「あっ、そうでした。どっちにしましょうか?」

「こっちがグェンさんの所にあった方」

彼が指差す巻物と、山田さんの巻物の2本を取ると、残りの1本を金庫に戻す。

「これで、もう良いです。帰りましょう」

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