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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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京都へ

それからどのくらい時間がたったのだろう?

目が覚める。

すごく狭くて、ここはどこだろうと、キョロキョロ視線を動かすと、どうやら車の中のよう。

手足が全く動かない。

見てみると、手と足を縛られ、口には猿ぐつわをされて、バンの後部座席に、横に寝かされている。

定期的な床の振動と、がなり唸りたてるエンジン音から、高層道路を走ってそう。

前の運転席と助手席に誰かいる。

あっ、もしかして誘拐されたのかも。

でも、うちは貧乏だから、身代金なんて全く払えない。毎月の家賃だって、滞納してるくらいだし。

それに、誘拐ってもっと幼い子を選ぶというイメージ。

高校生なら自分で抜け出したり、誰かに助けを求めたりとかできるから、人質の扱いも楽じゃない。

そんなことから、この誘拐犯は少し抜けてる?

誰かと勘違いして誘拐されたのかも?

でも、私に人質としての価値がないと分かったら、あっさり始末されてしまうかもしれない。

それも怖い。

いつの間にか、車は高速を降りて、一般道に入る。

車窓から、高くて古い塔の横を通り過ぎるのが見える。

五重塔?

ここはどこだろう?

起き上がって外を見たいけど、体を大きく動かすと前の人に私が目が覚めたのに気付かれてしまう。

怖くて、このまま寝たふりしかできない。

しばらくして、車が止まる。

後ろのドアが開き、2人掛りで私の頭と足を持ち、どこか少し薄暗いところに運ぶ。

私はずっと気を失った振りのまま。

そして、そのまま床に転がすと、2人は外に出て扉を閉める音がする。

目を開けると、小さな倉庫のようなところ。

棚があって、大きな麻袋みたいのがいくつも置いてある。隅にはシャベルがいくつか立てかけてあり、赤いコーンの5つの重なりの山が2つある。

どこかの建設工事事務所の物置みたいな雰囲気。

しばらくじっとして、周囲の物音が静まってから、縛られたまま、倒れないようにうまくバランスを取って、立ち上がってみる。

壁に小さな窓があり、光が差し込んでいる。そして、外を見ると。

ワぁー

夕日をバックに、五重塔が見え、その周辺に大きな瓦屋根の連なりが幾重にも重なる。少し離れたところにも、三重塔くらいの大きさの古い塔が見える。

そしてそのさらに奥には、山々がずっと街の周囲を囲っている。

私にとって、山や海は遊びに行くところであり、日常生活とは離れている存在。

その光景がとても風流で、埼玉では見られないような上品な風景。だいたい大宮は平野の真ん中なので、山は見えない。

ゴーン

どこか遠くで鐘の音がする。

鐘の音なんて、生で聞いたのは初めてかも。除夜の鐘も、クレームが来るので、大宮では鳴らさない。

「あー、風流です」

多分、ここは京都だろう。

中学の修学旅行は東北で、高校の修学旅行が京都だから、私はまだ京都に来たことがない。

つい見とれてしまう。

「誘拐じゃなくて、観光で来たかったです」

ぼそっと独り言の後に、そんなのんきなことを言っている場合ではないと気付く。

早く逃げないと。

足首や手首のロープを解こうと試してみるが、きつくて無理。

扉の外で物音がするので、また横になり気絶した振りをする。

1人が、倉庫に入ってきて、私の横にしゃがみ込むと、私の服のポケットから携帯を取り出し、ちょっと調べる。でも、顔認証が必要だから起動しない。

「おい、起きろ」

男の声と、肩を揺らされて、私はうっすら目を開ける振りをする。

「これで、家族に雲隠を持ってこさせろ」

目の前に携帯を押しつける。

その時初めて、犯人の顔を見る。

能面のようなお面をかぶっている。そして修験道者みたいな服。

??

なんでこんなお面をかぶっているのだろう?

誘拐犯だから、もっと乱暴なイメージなのに、どちらかと言うと、このお面は風流に見える。

そのギャップに一瞬戸惑う。

「雲隠?」

何のことだか分からず、しばらく考えて、思い当たる。

山田さんから借りていた巻物のことだ。

この人は、あれが目当てなの?

「巻物を持ってきてもらえばいいんですか?」

「そうだ。電話しろ」

携帯の時計を見ると、夕方の5時近く。涼くんがちょうどバイトから帰ってくる時間だ。

手首のロープを解かれる。

自宅には固定電話は無いので、涼くんへ電話する。ちょっと前に連絡用に持ってもらった。

「何?」

相変わらず、無愛想。

「もしもし、比呂美ですけど。涼くんですか?」

「ああ」

「巻物、持ってきてもらえませんか?」

「巻物?あー、あれ。今どこ?」

”天龍寺の裏庭に持ってこさせろ”

能面の男が、紙にそう書いて私に見せる。

「天龍寺の裏庭に、持って来てほしいです」

「天龍寺?」

しばらく沈黙。多分、検索している。

「もしかして、京都?」

能面の男が無言で頷く。

「はい」

「はぁー。今から?冗談だろ」

「事情は今は言えないですけど、急いで持ってきて欲しいです」

再び、しばらく沈黙。涼くん、察してくれるかな。逆切れして、通話を切ったりしないよね。

「巻物はどこ?」

「学校の私のロッカーの中にあります」

自分のクラスの場所と、ロッカーの番号を伝える。

用件を伝えると、涼くんの返事を待たずに、能面の男が携帯を切り、そのまま携帯を持ち去る。

私はまた後ろ手にロープで縛られ、1人倉庫の中に取り残される。

窓から見える夕日はもう山の向こうへ沈み、段々空が暗くなってくる。

外から時々車の音などが聞こえるので、郊外ではないのだろう。でも、暗くなるにつれて、だんだん周囲の音もしなくなり、静寂が訪れる。

縛られたまま扉へ行き、後ろ手で開けようとするが、外から鍵がかかっていて開かない。

鉄製のしっかりした扉。体当たりして開くほど、柔な扉ではない。

再び床に腰を下ろす。

涼くんが大宮から京都まで来るとしたら、新幹線のはず。何時間くらいかかるのだろう?3時間くらいかな?

すると、さっき電話したのが5時だから、8時くらい。

目的の雲隠れが手に入れば、彼らは私を解放してくれるはず。あと3時間の辛抱。

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