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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
33/157

引き留め

その頃、涼くんは、エレベーターで12階まで行くと、1207号室の前で立ち止まる。

手のひらをカードキーの差込口の前にかざすと、カチッと音がして、赤いライトが緑に変わり、鍵が開く。

左右の廊下を見渡し、誰もいないのを確認すると、そっとドアを開け、その隙間に滑りこむ。

正面に寝室があり、横に洗面所と、その奥に浴室と、トイレがある。

まず寝室へ行き、大きめのボストンバックを開ける。

中はほとんどが着替えで、学会の発表と言っていた割には、教科書やノートなど研究資料が全く無い。ノートPCがあるが、後回しにする。

起動に時間がかかるし、ログインの記録が残る。他に手掛かりが無かった時の、最後の手段。

バッグの中を探ると、コンビニの袋がある。中に電池とか小物と一緒にレシートが入っている。

レシートには、単4電池350円、携帯充電器1500円、μUSBケーブル300円とあり、最後に四条河原町店と続く。

「京都?北海道じゃないじゃん」

カバンの中は、他には特にめぼしいものは無い。

「身分証明書や貴重品は、身に着けているな」

バッグを閉じ、室内を見渡すが、テーブルの上を含めて何も無い。

洗面所に行く。

使いかけの歯ブラシや、歯磨き粉のチューブが置いてあり、その隣にポーチがある。

ポーチの中身を洗面所に出して広げ、調べはじめる。


15分ほど、私は桐生さんと話し込んでいる。

もっと早く話題が尽きるかと思ったけれど、桐生さんが会話をリードしてくれる。

とても話しやすい人で、4つ年上の大学生とは思えない感じのフランクさ。まるで同年代みたいで、男女と性別の違いを超えて、いい友達になれそう、と思ってしまう。

堅い話から、私のバイト先の話や、映画やアニメの話などに移り、下らない話にも、うんうんと楽しそうに反応してくれる。

こんなに私の話に興味を持って聞いてくれて、親身になってコメントをくれる人は初めて。

そして、とても受けてる反応で、でもわざとらしい嫌味ではなく、一緒にいて楽しくなれる。

さわやかな笑顔、ツボにはまった時の目元をピクッと上げて驚くしぐさ、そして、まじめに話を聞いてくれている時のクールな横顔。

完璧な人。

でも。

彼はウソをついている。

こんな素敵な人なのに、これは演技かもしれないと思うと、空しくなる。いや、空恐ろしい。私は騙されようとしている。

そんな思いが頭に浮かび、ふっと冷めた真顔になる。

「ちょっと疲れちゃった?」

「いえ、大丈夫です」

「いつのまにか、結構遅い時間になったね。休憩とか、する?」

「休憩?いえ、もう少し、お話ししてたいです」

「話なら、僕の部屋でもできるし。続きは、部屋でどう?ベッドに腰掛けてとか」

彼は立ち上がろうとする。

「いいえ、ここで、もう少しお話しできればいいかなって。ジュースも飲みかけですし」

「じゃー、ジュースも持っていこう」

「いえ、本当にここで、良いです」

彼はちょっと笑みを浮かべて私を見る。

「だって、こんな時間に女の子が男のホテルに来てくれたのに、そのまま返すほど、僕は野暮に見える?」

あー、そうなんだ。

夜遅くに男性の泊まっているホテルへ行くとは、そういう意味に取られちゃうんだ。

私、世間知らず過ぎた。

涼くんは30分引き留めて、と言っていた。

まだ15分くらいだし、彼がロビーに帰ってこないということは、まだ桐生さんの部屋にいる。今部屋に行けば、2人は鉢合わせしてしまう。

「そういうつもりじゃなかったんです。本当にお話だけ出来れば良いなって、思って」

「話なら、SNSでも出来るよ。じゃー、何でここに来たの?」

もうネタ切れだ。何にも口実が見つからない。

ほんのひと時だけど、沈黙が流れる。

「まさか、、、」

彼が天井を見上げる。次の瞬間、彼は大急ぎでエレベーターホールへ走っていく。

バレた。

すぐに涼くんに知らせなくちゃ。

フロントの端に内線電話があったから、それでかけよう、とフロントに向かうと、内線電話は他の人が使用中。

片手に書類の束を持ち、長電話の雰囲気。

フロントの人に、他の内線電話の場所を聞く。自動販売機コーナーの隣の一角に行くが、ここも使用中。終わりそうにない。

なんで、みんな携帯使わないの?

仕方がないから、エレベータホールへ行くと、2台とも、ちょうど出たばかりで、すぐ上の階を上がっている。

エレベータが降りてくるのを待っていたら、その頃には、桐生さんは自分の部屋に着いてしまう。

涼くんに急いで知らせる手段は、階段で登るしかない。

私はエレベータホールの更に奥の階段へ向かうと、1段飛ばしで登り始める。

5階あたりで息が切れてくる。

やっと10階に着く。もう一段飛ばしはあきらめて、逆に手すりを引っ張る感じで登る。あと、2階。

体育の授業って、こういう時のためにあるんだ。

心臓がバクンバクン鳴っている。息が切れる。

ほとんど歩くようなペースで12階にたどり着くと、1207号室を探す。

1200号室から順に進み、1206号室までたどり着く。その隣の扉は少し開いている。

はぁーはぁー言いながらドアを開けると。

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