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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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王子様

放課後。私は学校を出ると、バイト先へ向かう。

いつものようにカフェの制服に着替え、ホールに立ち、お客さんの注文を取り、厨房に伝え、それをテーブルまで運ぶ。

手を挙げたテーブルのお客さんに気付き、私はその3番テーブルへ行く。

「お待たせしました。ご注文をどうぞ」

「ホットコーヒー、1つ」

「以上でよろしいですか?」

「ええ」

「ご注文、繰り返します。ホットコーヒーをお一つ。よろしいでしょうか?」

無言。

コーヒー1つなんて間違えることないけど、一応そういうマニュアルだから、繰り返しただけなのに。

で、ちらっと視線を注文用紙からお客さんの方へ向けると、お客さんが私の顔を真正面からじっと見ている。

「比呂美ちゃん?」

「はぁ?」

「比呂美ちゃんじゃない?僕、覚えてる?ほらっ、桐生瑠果。小学校の時、よく一緒に遊んだよね」

「えっーと、すみません。ちょっと記憶が、、」

「数年で転校しちゃったからね。でも、元気そうで良かった。ふーん、ここでバイトしているの?」

「はい」

桐生と名乗るお客さんは、20才くらいで、ちょっと茶髪。

Tシャツの上に、高級ブランドのジャケットをはおり、ちらっと見える腕時計は多分ROLEX。かなり金持ちそう。若さ、快活さが、全身からほとばしっている。

そして、一番目立つ特徴は、そのイケメン。女子10人いたら、10人全員がそう判断するだろう、ワイルドさとクールさのちょうどいい感じの混ざり合い。でも、わずかに漂う物憂げさ。

そして、何より、いわゆるハイスペックな男であるのに、それを全く感じさせない謙虚さと、飾らない態度。

客観的に見ても、こんな良い人は滅多にいない。少なくとも埼玉には。

こんな人、昔の知り合いにいたっけ?

私は一生懸命、昔を思い出す。でも、小学校の時の記憶なんて何年も前だし、それも学年が違うし、今とは見た目も違うだろうし、全然出てこない。

何かちょっとした断片だけでも思い出せれば、会話を続けられるのに。

「比呂美ちゃん、変わったね」

「えっ、そうですか?」

「うん。言って良い?とても綺麗になった」

自分で顔がカッーと熱くなるのが分かる。多分、赤面している。

恥ずかしくて、急いでその場を離れ、注文を厨房に伝える。

ちょっと落ち着くと、桐生さんに何も言わずにテーブルを離れたのは悪かったなあ、と思う。気を悪くしていなければ良いけど。

コーヒーが出来上がる。注文を取った人が渡しに行くルールなので、コーヒーをお盆に乗せ、桐生さんのテーブルへ行く。本当は誰かに変わってほしいけど。

「お待たせしました。さきほどはすみません」

「全然、気にしてないよ。比呂美ちゃん、今、高1だったけ?」

「はい」

「僕、今、北海道の大学に行ってるんだ。2年」

「そうなんですか。じゃー、頭良いんですね」

「それほどでも無いよ、普通」

ニコッと、自嘲の意味だろうけど、私から見ると、とてもさわやかな笑顔で笑う。

こんな人の彼女になれたら、幸せだろうな。

涼くんには無い、刺激を感じる。

涼くんは確かに美少年という言葉そのまんまだ。中性的で、芸術作品のような美しさ。でも、ほぼ同じ年ということもあるし、ワイルドさは無い。あと、素朴なのは良いんだけれど、やっぱり貧乏。

それに比べて、桐生さんは大学生で年上で、かっこいい男って感じで、一緒にいると、自分の知らない世界へ導いてくれそう。スリリングさと、ミステリアスさを兼ね備え、それを実際の生活に反映させるお金もありそう。

涼くんは、コンビニのバイトで、収入もフリーター並み。時々、並外れた身体能力はすごいけど、普段は私がリードしてあげなきゃいけない。

どう考えても、桐生さんの方が断然すごい。

と、考えて、自分に幻滅する。

私は悪い人だ。

自分に対しては貧乏でも気にしないでほしいと思っているくせに、相手にはリッチさを求めるなんて。

「今、どこに住んでるの?前と同じところ?そう、あのー、山之内町だったっけ?」

「はい、ずっと引っ越しとか、していませんので」

「僕は、大学の学会の発表で、ここ1週間ほど大宮に来てるんだ。今は駅前のホテルにいるよ。久しぶりに大宮に来たついでに、昔住んでた所の近くを見て回って、ちょっと休憩にここに立ち寄ったんだ。まさか、比呂美ちゃんに会えるとは思わなかったよ」

「ええ、そうですね」

「こういうのを、運命の出会い、っていうんだね」

何と答えて良いか分からず、

「まぁー」

とはぐらかす。

「今日、バイトの後、時間ある?」

「終わるの、結構遅いです。10時までですから」

「じゃ、待つよ。その後、もっとお話ししたいな」

「でも、家に帰って宿題とか、いろいろやることがありますので」

「そっかー、残念だなー」

そう言うと、胸ポケットから、ホテルの名刺を出し、そこにペンで部屋番号1207と、SNSのIDを書き入れる。

「ここに泊まってるから。今度の週末とか、どう?大宮の新しいスポットとか、美味しいレストランとか、一緒に回らない?」

「えー、そうですね。考えておきます」

彼は、あっさりと、その日の夜の約束はあきらめる。強引じゃない所が良い。

別のテーブルのお客さんが手を挙げる。

「すみません」

「あっ、じゃー。失礼します」

そういうと、私は桐生さんのもとを立ち去る。

しばらくの後、私がレジをしている時に、桐生さんがお会計にレジまで来る。

カードを出しながら、

「待ってるから」

と、ウインクしてみせる。

キザじゃなくて、それがサマになっていて、思わず見とれる。

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