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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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過去の記憶

嫌な思い出が蘇ってくる。

そんなに遠くない思い出。思い出とは呼べない記憶。思い出したくない、蓋をしておきたい記憶。

彼は母子家庭だった。母と姉との3人暮らし。母は姉には優しく、貧しいながらも何でも買って与えた。

でも、彼には何も与えなかった。生きていくのに必要な食事さえも。服は同じものをずっと着たままでボロボロ。風呂にも入れてもらえない。

話しかけても、母も姉もまったく口を利かない。無視。食事は自分の分だけない。勉強道具はもちろん、服も靴も布団も何もかも無い。

「あんたは、あの男に似てる」

それが母の口癖だった。小さい時、あの男というのが誰か分からなかったが、小学校高学年くらいで、それが父親のことだと分かった。でも、父親の顔は知らない。

中二で家出して、同じような境遇の子達とつるむようになった。

でもなんやかんや言いながら、みんな、彼より状況はましだった。単なる親子喧嘩や、悪くて酒乱な親。でも、酒がない時は普通の親。そんな友達の家を転々とした。

そのうち、友達の家にも泊まれなくなると、橋の下にダンボールで囲いを作り、そこで寝泊まりした。

そんな時に、ある男が声をかけてきた。

「ちゃんと食ってるか?」

スーツを着た、いかにも真面目そうなタイプ。

「何かおごってやろうか?」

近くのファミレスで、久しぶりに腹一杯ご飯を食べさせてくれた。

食べ終わると、無言で睨み付ける。

何が目的なんだろう?ただで人に食事をおごることはない。

「まあ、当然、警戒するよね。俺の下で、働く気はあるか?」

働き手を探してるというのは、もっともな理由に思えた。多分給料は驚くほど安く、こき使われるだろうけど。それに、まっとうな仕事ではないだろう。

でも、秋も近く、外で寝るのは寒い。朝方寒くて目が覚める。

速攻で了承する気満々だった。

でも、1回のただ飯で受けると、軽く見られる。男のプライドと見栄を張る。

「金、もらえるの?」

「金は出さない。その代わりに、生きる目的を与えてやる」

ぽかんとした顔で、相手の顔を見つめる。

変なことを言う人もいるもんだ。

そのまま車に乗り、しばらく走る。

連れて行かれた所が、びっくりするほどの広大な日本庭園。その片隅に宿坊があり、一室を与えられた。

そこには大勢の人がいた。自分と同じような立場と思わしき人もいれば、純粋にまかないのおばちゃんのような人まで。

翌日から、様々な訓練を受けさせられた。武術、格闘技、ネット経由でのサーバーのハッキング、そしてピッキングも。

彼に指示を出す人は、天上さんのみ。天上さんとは、彼に声をかけ、ご飯をおごってくれて、彼をスカウトした男の名前。年は30前後。ごく普通のサラリーマンのような身なりだが、何をしている人かは全く分からない。

ただ唯一、ここでの彼が知っている人であり、同時に彼に指示を出す人。

ここがどこで、何の組織かも、彼には分からない。

ただ、何かの宗教団体っぽいと、うすうす感じている。カラスを崇拝している、それも3本足のカラスを。

でも、それ以上を知りたいとは思わないし、興味もない。彼はただ、天上さんの指示のみに忠実に動くことしか考えない。なぜなら、彼には助けてもらった借りがあるから。


ふっと手元のドライブレコーダーの写真を見る。男の子と女の子の2人のうち、男の子の方は自分と同じ境遇の気がする。

「この件が終われば、天上さんにスカウトを頼んでみよう」

結局、このアパートからは、探し物は見つからない。

「どこに隠したんだろう?知り合いの家か?それとも、最初っから、持っていなかった?」

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