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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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返却延期

数日後、学校で。

私は、巻物を返そうと、カバンに入れて、学校に持って行く。

休み時間に、クラスで、山田さんを見つける。

彼女は、あまり人とは交わらず、休み時間はだいたい自席に座っている。

結局、グェンさんからの巻物は手に入らなかったし、その後、数人の男に追いかけられたし、何かこの巻物に関わると怖い目に遭いそうで、早く手放したかった。

涼くんがグェンさんの巻物を暗記しているけど、山田さんの巻物と2つ揃えても、どうすれば良いのか分からず、結局山田さんのおじいちゃんの言う謎は解けない。

山田さんの席まで行き、声をかける。

「山田さん」

反応がない。声が小さくて、気が付かない?

「山田さん」

もう一度、声をかける。

彼女は、びくっと驚いたように、こちらを向く。

「ごめんなさい。ちょっと考え事していて」

「あのー、巻物のことなんですけど」

と、言って、山田さんの顔の、一滴の涙の跡に気付く。

「どうしたのですか?」

「おじいちゃんが倒れて。昨日から入院しているの」

「あ、そうだったんですね」

彼女はおじいちゃんと2人暮らし。だから、おじいちゃんがいなくなれば、完全に一人になってしまう。

「おじいちゃん、大丈夫ですか?」

「分からない」

こんな時に、巻物を返すとは言いづらい。何か仲を整理するみたいに受けとられそう。

それに巻物をジュースで汚しちゃってる。おまけの巻物も結局手に入らなかったし。

返すのは、おじいちゃんが落ち着いたらで良いかも。

「おじいちゃんの具合は、どんなですか?」

「心臓の弁の病気らしくて、明後日手術。もともと年だから、仕方のないんだけど。いざ直面すると、心配で心配で」

「大丈夫ですよ、きっと。元気出してください」

「うん」

「もし、何か困ったことがあったら、言ってくださいね」

「うん」

若いころの苦労はした方が良いと言うけれど、こういう苦労はしない方が良いと思う。して良い苦労は、先生に怒られるとか、部活や勉強が忙しいとか、次につながる苦労。

でも、彼女みたいに、失う苦労はしちゃダメだ。失ったものは取り返せないから。

山田さんに、そんな苦労はしてほしくない。でも、私にはどうしようもない。

私は巻物を教室後ろの個人ロッカーに入れ、折を見て山田さんに返すことにする。そのタイミングは少なくとも、今ではないのは確か。


放課後、バイトに向かいに、学校を出る。

その正門のすぐ近くに、車が止まっていることに、当然私は気が付かない。

運転席にいる男は、少し茶髪で20歳くらい。手に1枚の写真を持っている。夜の農道を背景に、ライトで浮かび上がる私と涼くんの顔。

彼は、正門から出てくる生徒の一人一人の顔を写真と見比べる。

この高校で、3校目。他の2校では、写真と同じ顔は見当たらなかった。

私が正門から出てくると、急に視線を何度も写真と私の間を交互に動かし、確認する。

「ヒュー」

軽く口笛を吹き、そして、車をゆっくりと発進させる。

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