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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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夜空のジャンプ

しばらく走り、倉庫から離れたのと、疲れて息が続かなかったので、

「ちょっと待ってください」

と言い、ペースを落とす。

ハァー、ハァーと、息が荒い。

でも、休憩する間もなく、後ろから車の2つのヘッドライトが迫ってくる。

「また、走ろう」

走り出すけど、ヘッドライトはぐんぐん近付いて来る。

「このままだと追い付かれる。山に入ろう」

彼は、私の手を取って、道の片側に広がる小高い山の雑木林に入る。

でも、雑木林の中は、足元が悪くて、暗くてよく見えないし、落ち葉が積もっていて安定しないし、とても走れない。

そうこうしているうちに、車は路肩に止まり、男たちが降りて、雑木林の中に入ってくる。

私は、つまずいたり、木にぶつかりそうになったりして、手を引く彼のペースもどんどん下がる。

すると、彼がひょいっと私をお姫様抱っこする。

こんな暗闇で、足場も悪く、木もいっぱいある中で、私を抱いて走れるの?

でも、私の予想とは違い、彼は私を抱いたまま、軽く雑木林の中を疾走する。そして、周囲に木の無い、ちょっと開けたところに来ると、ちょっとジャンプする。でも、それはちょっとどころではなくて、3,4階くらいの高さで、背の高い木の上の幹に着地する。

彼は、下の方を覗き込む。小さな光が雑木林の中をキョロキョロ動き回っている。懐中電灯を使っているのだろう。

「1、2、3,4。全部で4人」

そして、私を木の幹の座れそうな所に下すと、

「ちょっと待ってろ。すぐ、戻るから」

そう言うと、彼は5mは離れている隣の木に飛び移り、そこからさらに何本か横に飛び移って、見えなくなる。

「やっぱり、あの池袋のビルから飛び降りたのは、夢じゃなかったんだ」

だから、今、高い木の上に一人取り残されても、全然怖くない。

なぜなら、彼は絶対に戻って来てくれるから。

はるか向こうに、街の明かりが見える。周辺の畑の中の農道には、街灯がぽつりと数えるほど。雑木林の中は真っ暗だったけど、木の上に出ると、月が意外に明るい。目が暗闇に慣れてきたからかもしれない。

下を見ると、懐中電灯の光が、1つ、1つと消えていく。残り1つになり、その光も消えると、足元は真っ暗な静寂だけがどんよりと広がる。

急に後ろから声をかけられる。涼くんがいる。

「待った?」

「大丈夫」

「じゃ、帰るか」

そう言って、涼くんは片手で私を抱きかかえ、私は彼の首に抱きつく。

再び、ピョーンとジャンプし、隣の木に乗り移る。それを数回繰り返すと、雑木林の丘の少し下に農道が見えてきた。

「ついでだから、このまま駅まで行く」

彼は私を抱えたまま、農道わきの電柱を目指してジャンプする。

電柱の上に、片足で着地すると、そのまま次の電柱を目指してジャンプする。電柱は2,30mくらいの間隔で立っていて、その上をピョーンピョーンと飛んでいく。

ちょっとジャンプと降下の時の加速度が怖かったけど、すぐに慣れる。

「さっきの人達は、どうしたのですか?」

恐る恐る聞いてみる。

「気絶させた。しばらくしたら、目覚める。雑木林の中で寝てるから、蚊に刺されてるかも」

「そうなんですね」

こんなにジャンプできるアンドロイドなんだもん。本気を出せば、生身の人間にどんな危害を加えるか分からず、加害者にならないか、逆に心配だった。でも、気絶ならいずれ起きるし大丈夫だろう。

彼に抱えられながら、前を向いている涼くんの顔を下から見上げる。

月夜に照らされて、輪郭が際立つ顔は、機械とは思えないほどきれいで、最初に出会った、家の近所の公園を思い出す。

涼くんがアンドロイドだとは、どうしても信じられない。だから、私はどうしても人間並みに対等に扱ってしまう。そして、気も遣ってしまう。

でも、彼は気を遣われるのが、あまり好きではないらしい。会話の所々や、態度からそんな気がする。

彼はちょっと抜けている所があって、そんな時はつい彼に対して気を許してしまう。でも、すぐに私は失礼だったかもと、いつもの癖ですぐに気を付けてしまう。

そして、彼は時々今みたいに人間技を超えたことを軽々としてしまう所があって、やっぱり人間よりすごいんだと思い、私が気安く接してはいけないのではないかと思ってしまう。

一方、彼にどこまで感情があるのか、分からない。時々優しいのかな、と思う時もあるけど、それが優しさなのか、それとも義務的なパターン化された行動なのか、分からない。

でも、一つ言えることは、彼は私を全力で守ってくれる。

段々、周囲の明かりが増えてくる。ホームセンターの明かりや、道を走る車の量も増えてきた。民家が増えて、田園地帯から、だんだん住宅地っぽくなってくる。

街中に入り、雑居ビルが現れ始めると、電柱の上からビルの屋上へ着地する場所を変え、今度はビルの屋上を次々にジャンプして、駅を目指す。

下の車道には結構車が走っている。

でも、上空は暗いのと、普段みな夜中に街中で空を見上げないので、誰も私たちに気付いていない。

駅前のロータリーに、着地する。そして、私を地面に下す。

でも、私はなかなか涼くんの首を放さない。

「着いた」

私は首を放すと、ちょっとふらつく。自分の足で立つ感覚を忘れたみたい。でも、当然すぐに思い出す。

ロータリーにいる人が、数人こっちを不思議そうに見ている。

「もしかして、空から着地したところを見ていたのでしょうか?」

彼は、こういう時の周囲の反応に無頓着というか、分からないみたい。

まあ、それが足りない所でもあるし、良い所でもあると思う。

目の前の太田駅に、今日の午前に着いたのだけれど、今日の1日は長くて、もっと昔に思える。

いろいろあったけど、涼くんの新しい一面を発見できたのが、一番の収穫。

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