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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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ドタキャン

2時間弱くらいで、太田駅に着く。

そこからバスで最寄りのバス停へ。周囲はのどかな田園地帯。道の片側は緩やかな小さな山で、反対側はどこまでも見渡す限り畑。

住所をもとに、携帯で出品者の自宅を探す。

住所周辺は、民家が点在する。数棟のアパートがある。

1階の端の部屋だ。アパート名と室番号を確認し、ベルを鳴らす。

ビーー

旧式のチャイムの音。私の家のアパートと良い勝負。

でも、全体的な手入れは私のアパートの方が良い。ここは周囲にゴミとか荷物とか、いろいろ散乱している。

外の玄関横に、洗濯機が置いてある。近くに車は無く、原チャリが数台。

しばらくして、室内でガタガタっと音がして、ドアが開く。

小柄で裸足で、薄手の膝までの半ズボンに、白のタンクトップ1枚の男性が顔を出す。腕に入れ墨が入っている。顔つきが東南アジアっぽいダンゴ鼻。年齢は30代?意外にもう少し若いかもしれないが、感覚が分からない。妙に目つきが鋭い。

「あのー、オークションサイトで古い巻物をいただくことになっていた矢野です」

「アーー。アーー」

日本語、大丈夫かな?

「今日、取りに伺うって、お約束していたので」

「アーー、あれね。ソーね、ダメになったね」

「ダメになった?」

「ほかに、かいたいひと、あらわれたね」

「えっ。でも、私たちの方が先だったんのではないですか?」

「もっと、たかい、おかね、だしてくれるね」

そして、彼はバタンッとドアを閉める。

状況は分かった。私たちより後に、もっと高値で購入希望者が現れたから、そっちに乗り換えたということ。

でも、それって有りなのでしょうか?

早い者順の気がするし、どうしても高値に乗り換えたいのだったら、少なくとも私たちがここに来る前に連絡するのが普通だし。

外人だから、日本の常識が通じないのかも。

予想しない展開に、びっくり。こんなことが実際にあるなんて。

詰めが甘かったのかもしれない。もう少しこういう状況の可能性も考えて、事前に確認を取っておくべきだったかも。

「私はまだまだ子供だなあ」

本当は、怒りを覚えてよいのかもしれないけど、自分の不甲斐なさを責めてしまう。

先ほどの出品者のグェンさんを、もう一度ベルを押して呼んで、交渉、いや抗議するべきかもしれないけど、入れ墨と目つきが怖そうで、普通の職業の人ではない気がする。

「仕方がないから、帰りましょうか?」

涼くんに声をかける。

彼はこういう時、顔の表情を読み取れない。全くの無表情。

二人で来た道を、とぼとぼとバス停を目指して、来た道を戻る。

時刻は4時くらい。ちょっと日が傾き始める。

民家やアパートの集落を離れ、農道を二人で歩く。

農道のすぐ横に、用水路のような幅1m弱の小さな溝があり、水が流れている。溝の壁沿いには草が生い茂り、底に泥が溜まっていそう。

すると、その用水路の中で、何かが動いている。近づいて見てみると、小学生くらいの子供だ。全身泥だらけ。すぐ近くには自転車が水没している。

彼はどうも自転車を溝から押し上げようとしているらしい。でも、子供一人の力では溝の高さまで自転車を持ち上げることが出来ない。

「どうしたのですか?大丈夫?」

私は声をかける。彼はこちらを見て、しばらく返事をしない。

近くまで行き、しゃがんで、もう一度声をかける。

「手伝いましょうか?」

「おちた」

と、彼は答える。そのイントネーションが外人っぽい。

顔をよく見ると、何となく丸っこい鼻や色黒さで、東南アジア系みたい。でも、もともと濃い顔の日本人もいるし、子供だから日に焼けているのは普通かも。

私が自転車のハンドルを持って、持ち上げようとすると、涼くんが

「僕がする」

と、片手でハンドルを持ち、軽々と溝から持ち上げる。こういう時、彼は頼りになる。

子供はニコニコっとすごい笑顔になり、

「ありがとう」

と、やっぱりちょっと外人っぽいイントネーションで言う。

自転車は泥だらけで、チェーンやギアに泥や草が絡み付き、タイヤが回らず乗って走れない状態。移動するには、後輪を持ち上げる必要がある。

「家は、どこですか?」

「あっち」

と、私たちが今来た方向を指差す。

「せっかくだから、家まで送って行ってあげます」

2時間近くかけて何の収穫もなく家に帰るのが空しかったので、何かイベントが欲しいという気持ちがある。そんなこともあって、その子の家まで自転車を持って行ってあげることにする。

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