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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
藤原道長のレガシー
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小旅行

出発は、その末の土曜。

大宮公園駅から東武線で太田駅に向かう。涼くんも付いて来る。

本当は、私一人で太田まで行くつもりだったんだけど、彼が付いて行くと言うので、じゃ一緒に、ということになった。

涼くんがいると、安心できる。だって、池袋のビルで火事に遭った時、九死に一生を得たけど、それも彼のおかげだし。

ふと、なぜ彼はバイトをしているのだろう?と気になる。

家賃滞納を一括で立て替えてくれたほどお金は持っているはずなのに。

以前その理由を聞いたら、家賃立て替えで使い切ったから、と言っていた。

本当にそうなのかなあ?

また機会があれば、聞いてみようと思う。

東武野田線の座席に、涼くんと2人で座る。休日だし、午前の下りだし、空いている。

同じ車両に、統一されたユニホームを着た、私と同じくらいの年の子たちが数人いる。多分、沿線の学校の生徒で、部活だろう。

ぺちゃくちゃと、男女混じっておしゃべりに興じている。

目の前で見せられると、ちょっとうらやましい。

自分には全く別世界の出来事のよう。学校ではそういう場面を避けるようにしているから。

友達はいることはいるけど、なんだろう、ちょっと違って、節度ある友達って感じ。

ませてる、と言えばそうなんだけど、無邪気な友達が欲しい気がする。

でも、実際そういう友達が出来たとしても、今度は居心地の悪さを感じるんだろうな。

いつのまにか、ユニホームの集団は下車していた。

今日行く出品者の住所をもう一度見直す。

携帯で調べると、東武線の太田駅からバスで15分と表示される。アパートの1室で、名前はグェンさん。

「この人、中国人でしょうか?」

「名前は、ベトナムっぽい」

「ベトナム人?日本にいるんですね?」

「ベトナム人は日本に多い。すでに、日本は意外にも世界で有数の移民国家だから。特に地方は外国人が多くて、場所よっては、人口構成がかなり他国籍になっている」

「でも、埼玉では、少なくとも大宮では、あまり見ないですけど」

「中途半端な規模の都会だから。中国人は母国の都市戸籍のイメージから、日本でも都会に住みたがるから、都内に多い。逆に東南アジア系や南米系、最近ではアラブ系は、人手不足の地方に多い」

「そんなにいろんな国の人が?」

「僕も、似たようなものだけど」

「あっ、そうでしたね。私の家の居心地はどうですか?」

私は冗談半分で聞く。彼はちょっと考える。

「悪くない」

「悪くない?それは良かったですが。あんな狭い押し入れの中で半日暮らしているので、てっきり不満たらたらかと思っていました。じゃ、他に泊めてもらった記憶とか、思い出したりしたのですか?」

「似たようなことが前にもあった記憶がある。多分外国の場面。その時の周囲の反応が、そこと比べて、日本の方が寛容な気がする。融通が利くというか」

「そうなのですか?ちょっと意外です。でも、昔のこと、思い出したのですね」

「ふっと何気ない時に、何のつながりもないワンシーンをいくつか思い出した」

「例えば、どんなことですか?外国行ってたのですか?」

「がれきの中に置き去りにされていたこととか。光景だけだから、その前後が思いだせないけど」

「あまり、いい思い出じゃなさそうですね」

私は次の言葉を探しあぐねているうちに、タイミングを逸してしまう。

涼くんの過去。

もともと公園で倒れていたのを、私が助けてあげたのだけれど、行き倒れるような状況から考えると、恵まれた環境にいたとは思えない。

大切にしてあげたい。

無意識に、そんな声が心の中から聞こえる。

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