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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
高度1万mからのダイブ
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搭乗口の攻防

黒づくめの男が思いっきり加速を付けて飛びかかってくる。

重なり合って、ドッと2人は倒れる。

次に追い付いた男が加わり、少年を2人掛りで押さえ込む。

少年も負けじと、キックで1人を弾き飛ばす。

1人の男がスタンガンを当てようとするが、通路が狭く仲間に触りそう。

顔面にパンチで、ストレートに決まる。

少年が反動で倒れたところへ、上にのし掛かり、3人でもつれあって乱闘。

誰かの手が少年の背中の荷物から垂れ下がっている紐を引っ張る。

プシューという音と共に、真っ白なパラシュートが狭い通路一面に広がる。

暴風が吹き込む狭い通路で、パラシュートの布とロープがバタバタと暴れる。

布とロープで視界と手足の自由を奪われ、黒づくめの男たちの動きが鈍った瞬間、少年は男を払いのけて立ち上がり、搭乗口に走る。


黒づくめの1人が襲いかかるが、少年は片足で軽く蹴り返す。

男は後ろに吹き飛び、更に後ろにいた別の男にぶつかる。その男は衝撃で搭乗口から弾き出される。

一瞬全員が息を飲む。が、かろうじて搭乗口の端を必死につかんでいる。

その手は今にも離れそう。

少年が駆け寄り、手を差し伸べ、間一髪で男の手をつかむ。

この機体は尾翼に3つのエンジンが付いている。この搭乗口のすぐ後ろに、直径3mの第3エンジンが唸りをあげている。

宙ぶらりんの男の数メートル後ろには、そのエンジンがぽっかりと口を開けて、ナイフの刃のような何十枚ものタービンブレードが高速で回転し、空気を猛烈な勢いで吸い込んでいる。

少年が手を離せば、男は確実にエンジンに吸い込まれる。

今まで無気質だった男の顔に、恐怖と手を離さないでくれという懇願の表情が広がる。

少年にはそれが分かった。

でも、通路内の他の黒づくめ達には分からなかった。

いや、状況は分かるが、他に手段がなかった。彼らの経験から、何よりも任務最優先であり、今回の任務は少年の捕獲。

少年が片手で機外の男をつかんで身動きが取れないのを見て、一斉に押さえ込みにかかる。

不自由な体勢のまま暴れ、反撃しようにも、とても身動きできない。

3人がかりで押し付けられてしまう。

あっ

急に手が軽くなった。

機外で宙を漂う男。真っ赤に血走った目と恐怖の表情が顔一面に広がる。

彼は第3エンジンに吸い込まれる。次の瞬間、第3エンジンがどす黒い湿った粉末を後方に吐き出す。

そして、ボンッというくぐもった爆発音。

真っ黒な煙をモウモウと吐き出し、時折オレンジ色の炎をその隙間から覗かせる。


コックピットで、ウーウーという警告音と、”ファイアー、ファイアー”という人工音声が響き渡る。

第3エンジンに赤いランプが点灯する。

「何やってんだ!」

パイロットは第3エンジンのスロットルを下げ、燃料供給を停止。みるみるエンジン回転数のメーターが下がる。

同時に消火剤のレバーを引っ張る。


第3エンジンから黒煙が急速に収まり、逆に白い泡の消火剤があふれだす。

ボロボロになったタービンブレードは、力なく惰性で回るが、やがて止まる。

機がじわじわと左に傾く。

バランスを崩した黒づくめの男たちは、搭乗口から落とされないように、通路の壁につかまる。

自分にかけられる力が減ったタイミングを、少年は逃がさない。

3人の男を押しのけると、駆け足で自ら搭乗口から飛び降りる。


彼の姿は通路から全く消えてしまう。後には通路内でバタバタと風になびくパラシュートの一部。

パラシュートのロープが絡まって、搭乗口から外に続いている。

黒づくめの男が搭乗口から頭を出すと、5mほど斜め下後方で、少年が切り揉み状態になっている。

パラシュートのロープが搭乗口のフックに引っ掛かり、今度は少年が宙ぶらりん。

「メモリは?」

「まだやつが持っている」

男たちはロープをたぐり寄せ始める。

暴風の中、エンジンが一つ停止しバランスを欠いた輸送機は右に左に揺れ、ロープの先の少年を引き上げるのに難航するが、少しずつ近づいて来る。

でも、少年は輸送機に戻るつもりはさらさらない。

切り揉み状態の中、手や足に絡まったパラシュートのロープを一つ一つ外していく。

とうとうパラシュート本体をしまっていた背中の収納袋のベルトのみが、輸送機との唯一の接点となる。

胸の前のフックに手をかけて外し、両肩をベルトから抜く。

最後に腰ベルトのみになる。

ためらいもなく腰ベルトを外す。


次の瞬間、少年は空中を転がるようにクルクルと回転しながら、輸送機の後ろに吹き流される。

気がつくと、はるか頭上に輸送機が見え、やがてそれも小さな点となり、漆黒の闇に紛れて分からなくなる。

背中を下に、そして今度は上にと、回転しながら、凄まじい速度で落下する。

そのまま雲海に突入。

濃霧のように暗く、全く何も見えない。

やがて、水滴が吹き付けてきて、すぐに洗濯機の中にいるかのように、あちこちから水の粒が嵐のように少年に向かってくる。

雲の中は、渦を巻くように、強風が吹き荒れる。

「あっ」

ポケットに入れていたクリスタルが割れて、ポケットから風に飛ばさる。さっき輸送機のアタッシュケースから盗み出したもの。そしてバラバラっと空中に放り出される。その数7個。

彼はとっさに手を伸ばしたが、1個も掴み取ることができず、あっという間に7個に割れたクリスタルは闇の彼方へ飛び散ってしまった。

そして、少年は落ち葉のように、飛ばされながら、でも確実に落下していった。

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