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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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確保

私は彼女に、涼くんを止めるあのリモコンみたいな端末を差し出す。七丈小島の海岸で、彼のポケットから取り出したもの。

彼女はまず端末を見て、それから私の顔を不思議そうに見る。

「涼くんから、あなたの話を聞きました。あなたの国で過去に何があったかを。国がどうとか、社会がどうとか、そういうことは私には分からないけれど、2人の間に何があってどう行き違ったかは分かったつもりです。そこに部外者の私が入り込む場所はないということも。でも私は思うのです。あなたは嘘をついていないと。そして直感的にあなたが正しいと。だから私は彼を説得したのです。そして彼は自分の身をあなたに委ねることに同意しました」

私は彼女に端末を差し出す。彼女はどうすればよいか戸惑っているようだったけれど、ゆっくりと手を出すと、端末を受け取る。それからその手をぎゅっと握りしめて胸の前に持っていく。目からポロポロと涙があふれ始める。

「パパ、ママ。私、勝った。勝ったから」

しばらくその姿勢で泣いていたけれど、それからぐったりと地面に倒れ込む。そして全く動かなくなる。

結局彼女は端末で涼くんをフリーズさせたり、無茶な命令をしたりはしなかった。

ソフィアさんはこれで納得してくれたのかなあ?

私にはそこまで人を恨んだ経験が無いから、そういう憎しみの感情が解消できるのか、できないのかが分からない。もし出来るのであれば、どうすれば解消できるのかも、当然分からない。

でも、少なくとも今は、彼女の憎しみを解消するには、彼女の良心に委ねるしか方法が無いと思う。

そんなことを泣き崩れてぐったりとしたソフィアの前で考えていると、後ろから桐生さんが声をかけてくる。

「終わった?」

「はい」

そう答えると、彼は彼女の背中を再び踏みつけ、銃を向ける。

「えっ、ちょっと待ってください。撃たないでください。彼女はとてもかわいそうな人なんです」

すると彼はあっさりと答える。

「みんなそうだよ」

みんな?みんなって、それは桐生さん自身も含むということを言っている?つまり、桐生さんもかわいそうだと?

その時、私は彼も心に何かを抱えているんだと気付いたけれど、今はそんな悠長なことを言っていられない。彼女の命がかかっているから。

「ちょっと離れて。頭を撃つと時々頭蓋骨の破片が飛び散って、怪我する時があるから」

彼はまだ彼女を殺す気でいる。もう言葉では彼を止められない。

私は銃を他の方向へ向けようと、彼の手首を抑えると、

「おい、離せよ」

と力ずくで元に戻す。

あっ、この人、頑固だ。

でもその頑固さは普通の男子のそれ。

涼くんが聞き分けが良すぎて、男子はみなそうだと勘違いしていたけれど、それは彼が私の家に居候しているせいか、もともとアンドロイドだから人間の言うことを聞くように作られているせいかの、どちらか。

普通の男子は女子の言うことなんか聞かなくて、自分の意見を押し通す。レディーファーストなんて、どうでも良い時だけ発揮される。人の命が関わるような、今みたいに重要な時には自分の意見を押し通すのが普通の男子。

だから、桐生さんも普通の男子だと思い直す。

もう他に方法が無い。そう思った私は彼女の頭の上に覆いかぶさるようにしゃがみ込む。

彼はやれやれといった感じで言う。

「どけよ」

私は動かないでいる。

「一緒に撃つよ。これが最後だから」

えっ、桐生さんってそんな人だったの?でもあり得るかもしれない。

この人の変わり身の早さというか、その場その場での対応力というか、つかみどころの無さは前から感じていたから。何かが根本的に欠けている人。

「おいっ」

すぐ近くの涼くんが桐生さんに歩み寄る。私の危機を察知してやっと動き始めてくれる。

桐生さんも涼くんにも注意を払い始め、緊張が走る。誰かが下手に動けば、桐生さんは私か涼くんに向けて発砲する。場が凍り付く。

その時、誰かの携帯の着信音が鳴る。それが軽快なメロディーで一気に場が和む。

桐生さんの携帯だった。彼は胸ポケットから携帯を出し、通話する。

「はい、今確保しました。目的の物も有ります。はい。了解しました」

漏れる声から相手は天上さんだと分かる。

彼は銃を下ろすと、腰から手錠を取り出し、彼女の背中で両手に掛ける。

あれだけ強引に彼女を殺そうとしていたのに、天上さんの指示があると、コロッと態度を変える。全くつかみ所のない人。

「おい、立て」

彼はソフィアに声をかけるが、彼女は全く動かない。彼女の髪の毛をつかんで頭を持ち上げる。彼女の口は半開きで、視線はぼんやりと宙を漂っている。意識があるのかもわからない。

「あれっ、生きてる?」

桐生さんはソフィアが抵抗しているところしか見ていないから、事情が呑み込めていないみたい。彼女の頬を数回ペチンペチンと叩くが全く反応がない。

「さっき、何したの?」

私に聞く。

「いえ、ちょっとお話ししただけです」

「ふ~ん。でも、彼女、壊れちゃってるよ」

その時、埠頭の方から天上さんが歩いてやってくる。近くまで来ると、

「護送して」

と桐生さんに指示する。

桐生さんは意識のないソフィアを片方の肩に背負うと、引きずって埠頭まで運んでいく。

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