表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
144/157

本当の目的

「あなたは何も分かっていない」

そして胸ポケットから何かを取り出す。

あっ、あの例の涼くんをフリーズさせるリモコンみたいな端末。

彼女はそれを彼に向け、端末のボタンを押す。次の瞬間、彼の動きが止まる。

彼に近づくと、彼の頬の触り、髪をかき上げ、見納めという感じに横顔をしばらく見つめる。そして耳元でそっとつぶやく。

「私が日本に来た一番の目的は、あなたに復讐すること」

高ぶる感情を抑えるのに精一杯という彼女の感情が読み取れる。

「さようなら」

彼女は悲しそうに言う。

何をするつもり?ここには前みたいに粉砕機はないし、多分彼の体は普通の銃なら大丈夫なはず。

彼女はその端末を彼のズボンのポケットにねじ込む。

「このデバイスは半径5mしか届かないの」

それから部屋の南面の窓ガラスに向かって、何発か銃を発射する。窓ガラスに縦横2m位の大きな穴が開く。

その窓ガラスの先は一面広がる海で、割れた穴から突然ビュービューと海風が入ってくる。つまりこの別荘は海にそそり立つ断崖絶壁の上に建っていた。

「ここから飛び降りて、海の底に沈んで。二度と浮かんでこないで」

彼女がそう言うと、彼は窓ガラスの割れた穴に向かって歩き始める。

「待って」

私はそう言って彼の手を引っ張るけれど、私のか弱い力ではどうすることも出来ず、彼はずんずん窓ガラスの穴に向かって歩いて行く。彼に後ろから抱きついて歩みを止めようとするけれど、全く無駄な抵抗。

あっという間に窓際までたどり着いて、彼はそのまま窓の外へ。私も彼に抱きついたまま、一緒に窓の外へ。

次の瞬間、宙を舞う。

眼下の海面はかなり遠い。全然近づかない。

落ちて行っているはずだけれど、スローモーションのようにゆっくり近づいてくるように見える。

落ちる間に、いろいろなことが頭に浮かぶ。まず、身の安全をどうやって確保しよう?

水深が浅くないかとか、足元に岩が無いかとか。でもここからでは水中まで見えない。

次に危険な生物がいないかとか。もしいても、すぐには近寄ってこないはず。

一瞬のはずなのに、こんなにたくさんのことを考えられるのね。もしかしてこれが走馬灯?

次の瞬間、目の前が真っ白になる。

あっ、海に落ちた。

真っ白なのは細かい泡。その泡もしばらくすれば消え、目の前に沈んでいく彼の体が見える。その背後に海底が広がっている。透明度が高くて、海底まで良く見える。

海底は起伏に富み、丘陵地帯のようにうねうねと丘のような小山のような地形が続き、海中に陽の光が差し込んでいる。海底の浅い部分には砂の上にいくつか岩が転がっていて、所々に魚が無邪気に泳いでいるのが見える。でも、そのすぐ近くに深い谷が見え、底を覗き込むと真っ暗でどこまで続いているのか分からない。暗黒の恐怖に吸い込まれそうな気がする。

彼の体はその深い谷へじわじわと沈んでいく。

”浮いて”

そう思ったけれど、彼は全く動かない。彼の胸を抱きかかえ、足をバタバタと動かすけれど、私も一緒に沈んでいく。

彼の体重はいくらあるのだろう?

聞いたことなかったし、測ったこともなかったけれど、もしこのくらいの身長の男子の平均とすると、70kgくらいかな。そして彼はアンドロイドだから当然肺はないと思うので、浮力はゼロ。つまり70kgの鉄の塊と同じわけで、それを抱えて私はバタ足で浮上しようとしている。そう考えると無理と思うけれど、ここで彼を離してしまったら、永久に彼とは会えなくなってしまう。だから、もうすこし頑張ってみる。

でも、バタ足は効かず、私も一緒に沈んでいく。ツーンと耳が痛くなってくる。上を見上げると海面がかなり上にある。そして、当然のことながら息が苦しくなってくる。

朦朧としてきて、意識が遠くなり始める。足元は真っ暗な底なしの谷底。それだけでも怖いのに、彼を失うという恐怖をより大きく感じる。彼を失うことに比べたら、底無しの真っ暗な谷の恐怖はそれほどではない。

段々、自分が何を考えているのか分からなくなってくる。ただ、漠然と恐怖が存在するのは分かる。

視野が狭くなってきて、何も見えなくなってくる。自分が今置かれている状況も分からなくなる。

あれっ、もしかして死んじゃうのかなあ?死ぬってこういうこと?

そして、私は意識を失った。


別荘のリビングでは、ソフィアが海を覗き込む。

「あっ、一緒に落ちた」

しばらく上から海面を眺めて、いつまでたっても私たちが浮かび上がってこないことを確認する。

「口封じする手間が省けた」

それから同じ部屋にいる二人のいかつい男の方を向くと

「撤退する」

と声をかける。木箱の上の黒革のカバンを手に取ると、男たちを率いて部屋を出ていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ