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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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南海の孤島

その上空500mの輸送ヘリの中の、金塊を運んだバンの荷台の中で、私は両手を背中で、さらに足首も縛られて、頭から麻袋を被せられている。

バタバタとすごい爆音が車内に響き渡っていて、かつ時々フワッと上下左右に心許なしに揺れるので、ヘリコプターで空を飛んでいるという実感はある。

どこに連れて行かれるのだろう?

漠然とした不安が襲ってくる。まだ、運転手や元議員は車の中にいる気配がある。

その時、トントンと助手席のドアを叩く音がして、2,3の英語のやり取りが聞こえて、ドアが開いて人が降りる音が聞こえる。元議員が車から降りて行ったみたい。

彼はヘリの副操縦士に呼ばれて、コックピットに入る。

「here you are」

彼はヘッドマイクを渡され、立ったまま頭に着ける。

「あー、これはこれは。ファッジ参事官自らご連絡いただきありがとうございます。はい、はい。全て順調です。金塊は無事確保いたしました。あとはオスプレイの到着を待つだけですのでご安心ください。私の別荘のある七丈小島で載せ替え、沖縄経由でシンガポールに運び現金化の予定でございます。それまでは別荘の方で厳重に保管しておきます。はい、はい。今回の輸送ヘリの出動と言い、腕の良いスナイパーの紹介と言い、米軍のご協力、大変ありがとうございます。このお礼はまた折を見まして」

彼は誰もいない宙に対してペコペコお辞儀をしながらヘッドマイクを外す。車に戻ってきた彼は上機嫌。運転席のやくざに話しかける。

「これで島に着いてしまえば、もともと人口の少ない島だから、もう誰も気にしない。シンガポールで現金化したら、ドバイに高跳びだ。お前たちにもたんまりとボーナスをはずんでやるから、まあ、期待しといてくれ」

「へい」

上機嫌だから、彼は口が軽くなっている。

「アメリカ様サマだ。最初、行方不明の金塊を探している議員仲間の前に、アメリカ大使館のファッジという参事官が現れ援助を約束してくれた時は、ちょっと助かる程度とは思ったが、まさかここまでいろいろ手を回してくれるとは」

感慨深げに少し上を向く。

「彼はとんでもないことを提案してきた。それは米軍の一級のスナイパー、狙撃手が私を公衆の面前で暗殺することだ。もちろんパフォーマンスだけど。死んだことになれば、見つけた金塊を独り占めできるからな。普通に金塊を発見して発表したら、国の物になってしまう。プロのスナイパーだから、致命傷にならないように急所を外し、掠めるように、でもそれなりに出血はする箇所を狙う。後は医者を事前に買収しておき、死亡診断書を書かせるだけだ。でも、プロといえども撃たれる時は怖かったなあ。あれ何だっけ?猿も木から落ちるだっけ?」

「河童の川流れですか?」

「あー、そうそう。撃たれないですむ方法をいろいろ考えて、でも俺が生きていて急に金使いが荒くなったり、突然失踪したら疑われるだろ。だから結局死んで他人になり替わるしか方法が無かった」

私の目の前で撃たれたのは、演技だったというの?

ソフィアが私を狙い、その流れ弾に元議員が当たって亡くなったと私は思い込んで、とても良心の呵責を感じてたのに。

でもこの話を聞いて、その重しが一気に解けて安心する。

そっか、私や涼くんが狙われた訳では無かったんだ。

とすると、ソフィアは無関係になる。

あー、あの子に家に不法侵入しちゃった。それにそれ以上に申し訳ないのは彼女を犯人扱いしてしまったこと。本当に謝らなくちゃ。

彼の話し声が聞こえる。

「その代償は安くはなかった。得た金塊の半分だからな。でも俺一人では現金化の目途もなかった。これだけの協力を得られて、他人に成り代わり、現金化も出来れば、半分取られても文句は言えない」

それからしばらくして、輸送ヘリは降下し始める。フラフラッとわずかに横に揺れたかと思うと、下からゴツンッと衝撃があり、揺れが収まる。着陸したみたい。

後ろの方でハッチが開く音がして、車はバックでヘリから降り、バンのトランクがボンッと開けられる。

「あっ、そういえば、こいつを連れてきていたんだったな」

元議員の声が聞こえる。

「地下に倉庫があるから、そこに放り込んでおけ」

その声とともに、私は麻袋のまま再び誰かの肩に担ぎ上げられて、ゆっさゆっさと揺れながら運ばれる。

周囲から波の音が聞こえる。すぐ海の近くみたい。でもその波の音もすぐに聞こえなくなり、屋内に入り階段を下りた所で、麻袋に入れられたまま床に置かれる。後ろでバタンと扉の閉まる音がして、急に静けさに包まれる。

静寂さとちょっとした湿り気から、ここがさっき話していた地下室だと分かる。視界が麻袋で遮られているので、朝か夜か分からない。

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