MARINE
一方その頃、蛇返しの滝の洞窟では。
涼くんが縦穴から頭を出し、金塊のあった洞窟の奥の部屋まで這いずり出てくる。
「あー、突然ひどいことするなー」
服のほこりを落としながら周囲を見渡し、誰もいないことに気付く。
「比呂美さん、どうなったんだろう?」
急いで洞窟から出る。すっかり夕方になり日が暮れかけている。昼間は周囲の森でさえずっていた鳥の鳴き声も今はしない。山道には複数の靴跡と2本の線が地面にめり込むように付いている。台車の車輪の跡。
彼は車輪の後を追って山道を駆ける。しばらく進むと、駐車場に出る。山中のリゾートホテルの駐車場だ。そこで2本の車輪の跡は消えている。
周囲を見渡すと電柱に監視カメラがある。
彼は意識を集中する。監視カメラの通信回線に侵入し、過去数時間の映像を検索する。車輪の跡が消えた場所に止まっていた車を見つける。白のバン。台車から重そうな荷物を数人の男が持ち上げ載せている。その後一人の男が細長い不定形の麻袋をその隣に放り込んでいる。これが比呂美さんだ。
バンは駐車場を出て北へ向かっている。
「彼女を助けに行かなきゃ」
彼は目を開けると、周囲をきょろきょろと見る。数台の車の列の端に、1台のバイクが止まっている。
「ちょっと、これ、貸してもらおう」
バイクにまたがると、キーの差込口の上で手をかざす。内部で回路がショートしてセルモーターが回り、エンジンがかかる。
バイクが爆音をとどろかせて、北へ向かって急発進する。
今のところ一本道なので、道に迷うことはない。
薄暗くなってきた夕闇の中、バイクは北へばく進する。制限速度など守っていない。
突然路面の状態が悪くなり、転びそうになり、必死に立て直す。
「おー、危なかった」
路上の手りゅう弾の爆破跡を一瞬で通り過ぎていく。
「こっちの道で、合ってるみたい」
更に進むと右カーブの手前で、左路肩の崖の斜面にダンプが落ちて森林に頭を突っ込んでいる。
「まだ、比呂美さんは無事みたいだけど、一体何があった?」
ダンプのフロントガラスは、内側から無数のひびが入り、全面真っ白になっている。
「手りゅう弾?誰が絡んでる?」
彼は先を急ぐ。
ソフィアたちの車は金塊を積んだバンを追ってさらに飛ばす。
段々所々に交差点が出てくるようになる。この辺りは別荘地で小さな道への入り口は無数にある。視界の中にバンはない。
ソフィアが車のダッシュボードからiPadのような小さな端末を取り出す。端末には付近の地図が映し出され、小さな赤い点が一つ輝いている。
「彼ら、県道を外れたわ」
最初の銃撃戦の際に、バンが先導車をしんがりとして残して路肩からすり抜けた際に、磁石式の発信機を投げつけて車側面の壁に取り付けたのだった。
「後2kmほど進んで、左折して」
車は道なりにしばらく直進し、ソフィアの指示通りに左折する。さらに進むと、森林が開け左右一面に畑が広がる。音を遮る木が無くなり遠くの音が良く聞こえるようになったせいか、パタパタパタパタという音がはるか前方から聞こえる。
「えっ、まさか」
ダッシュボードを開け双眼鏡を取り出し前方を見ると、双発の大型輸送ヘリの後方ハッチを開けている。そのハッチを白のバンが車ごと入っていくのが見える。
「離陸されたら手が出せない、急いで」
ソフィアと後部座席の3人は手に銃を持ち、発砲の準備をする。
後方ハッチが閉まり始め、完全に閉まると輸送ヘリは斜め上方に飛び上がる。ソフィアの車が離陸地点に着いた時には、輸送ヘリは空高く舞い上がっていた。
「ヘリまで用意していたなんて。ヤクザだけじゃなく、後ろに誰かいるの?」
仲間のクルーカットの男がトランクを開けロケットランチャーを取り出し、肩に担いでヘリの後姿に照準を合わせる。
「待って。今撃ち落とすと、荷物が損壊する」
彼は素直にロケットランチャーを下ろす。
ソフィアは双眼鏡でヘリの側面の文字を読み取る。MARINEと書いてある。
「自衛隊じゃないの?なぜ米軍が?」