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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
133/157

木箱

そのまま彼に手を引かれて、奥へ進む。

洞穴の中は立って歩けるくらいの高さが続き、少しずつ下り坂になる。段々入り口から太陽の光が届かなくなり、懐中電灯の丸い光が暗闇の中にはっきり見えるようになる。

洞穴の上を滝へ流れ込む小川が流れているせいか、全体的に洞穴の中は湿っぽく、空気はひんやりと冷たい。

10分くらい歩く。

入り口から光は完全に届かなくなり、懐中電灯だけが頼り。空気もいつのまにか完全に乾燥している。所々にある空洞に気を付けて足場を確認しながら進むと、懐中電灯の先に壁が見える。

行き止まり。

えっ、ここで終わり?

懐中電灯を振って、周囲をあちらこちらと照らしてみると、木箱が置いてある。こんな手つかずの自然の物の中に、突如、木箱という人工のものが置いてあってちょっと変な感じ。つまり誰かが過去にここへ来たという証だから。

「これ、山田のおじいちゃんが言っていたもの?」

「さあー、どうかな?ちょっと見てみようか」

彼はそう言うと私の手を取って、木箱に近づく。私は懐中電灯を近くの岩棚の安定している所に置くと、洞穴全体を照らせるようにうまく方向を調整する。

彼は木箱の蓋に手をかける。蓋の周囲に釘が打ってあるので、バリバリッと蓋の一部の木片を割りながら、力ずくで蓋を開ける。

すると。

ヌボッとした感触の波打った板が連なって見える。それらは良く見ると、板では無くて金属。薄暗い懐中電灯の中で、やぼったいムニュッとした物体に見えるけれど、明るい光の中では光り輝く金塊の色だと想像できる。

私は思わず息をのむ。

にわかには信じられない。きっとレプリカか何かに違いない。

でも、思い出してみると、以前佃で拾った金塊と全く同じ形と刻印で、やっぱり本物かもしれない。

それが縦横1m弱の木箱に満載されている。佃で拾った金塊が何本入っているか、想像もできない。そして、それらが総額いくらになるかも。

普通だと、山中で金塊を発見するとニュースになるのはもちろんだけれども、発見者もその何割かもらえるらしい。

けれど、この金塊は落し物ではなく保管物という扱いだから、取得者に謝礼は出ないということを知っている。なぜなら佃で金塊を拾ってそう言われたから。だから、個人的な利益という意味では興味も興奮も湧かない。

もともとこの金塊を捜し出そうとしたのは、議員さんが撃たれて、その理由が議員さんに寄るものなのか、私を狙ったものなのか知りたかったから。

涼くんに恨みを持っている人が彼を匿っている私を狙った可能性でないことを証明するために、議員さんに原因があることを捜し出したかった。そのために議員さんが主に活動していた終戦間際の金塊を探すプロジェクトを私が後追いすることになった。

でも、いつのまにか私が先行してしまったけれど。中心人物の議員さんが亡くなってしまったから、そのプロジェクトは止まってしまったのかもしれない。

でも、今、ここで金塊を見つけたことで、議員さんは利害の渦の中にいたわけで、この金塊をめぐる争いに巻き込まれて命を狙われた可能性は十分あると分かった。そうすると私や涼くんが狙われた訳では無くて、私にとっては何か心の重荷を取り除くことが出来たような気がする。そして、それで十分満足。

でも、あのルスナラという外人の女の子はなぜ涼くんが狙われて、その身近にいる私が狙われたと言ったのだろう?

ちょっとそこだけが、心に引っかかる。

私をわざわざ警戒させ、嫌な思いをさせる理由が見当たらない。彼女が涼くんを粉砕機に落として粉々にしようとした時に私が邪魔をしたから?

でも、それは涼くんに対して大事に思う気持ちからであって、彼女に対しての悪意などではないから、私が彼女に何か目を付けられる理由には少し弱い気がする。

ちょっと不安定っぽい子だったから、単に思い込みが激しいだけかも?

どちらにしても、私たちの目的は達せられて、一件落着。

「無事、金塊もあったことだし、帰ろうか?一応、警察にも連絡しないといけないね」

「うん」

こういう時、彼はあっさりとしている。アンドロイドだから私欲が無いのは分かる。でも一応男の子だから、もう少しガツガツしていても良さそうな気もするけれど、そうすると今度は私が彼に対して性格のすれ違いを意識し始めてしまうのだろう。だから、こんなあっさりしていて、無欲な彼が私にはちょうど良い。

金塊との最後の別れに、もう一度木箱を覗く。

剥がれかかった蓋の下の、ずらっと並んだ金塊の上に、黒い鞄のようなものが置いてある。手で触れてみると、牛革の書類カバンみたい。デザインがかなり年代物で、金塊と一緒に有ったのだから多分戦時中の物かしら。質の良い牛革を使っているみたいで、まだしっかりしている。でも金塊以上に興味がわかない。

突然、

「案内してくれて、ありがとう」

と、後ろから声をかけられる。これは涼くんの声ではない。

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