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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
125/157

婦長さん

翌日、学校が終わり帰宅したらすぐに、北部救急救命センターへ自転車で向かう。私の家から自転車ですぐ近く。

単に聞くだけだから、涼くんはバイトで、私一人で向かう。

受付に行き、携帯の死亡診断書の写真を見せて、聞きたいことがあると伝える。

「どのような内容でしょうか?」

受付の女性が少し怪訝な顔をする。

議員さんが献体して、その宛先が栃木の病院になっていたのに、その病院では来ていないと言われたこと。議員の奥さんとは知り合いで、彼女が心配していたので、家が近くの私が代わりに聞きに来たと説明する。

「ちょっとお待ちください」

と彼女は内線電話をかける。

しばらくすると、中高年のナース姿の女性が廊下の向こうから歩いてくる。胸には看護婦長とバッジが付いている。彼女は受付の女性としばらく話すと、こちらを向く。私は携帯の死亡診断書の写真を見せる。

「確かにこれはうちの診断書のフォーマットですね。で、ご遺体が行方不明ということですか?」

「はい」

看護婦長さんは病院でどのくらいの立場の人なのかしら?

彼女は慎重に言葉を選びながら話し始めるのだけれど、それは変なことを言うと後から問題になると意識している話し方で、責任のある立場に思える。。

「まず、救急患者さんの救急治療をするのが基本的にはこちらの業務になります。もちろんその際には最善の処置を行います。その後は最寄りの病院などに転院していただくことになります。しかし不幸にも亡くなってしまわれた場合には、死亡診断書を書くまでがこちらの分担になります」

「はい」

と答えたものの、聞きたいことが出てくる。

今の話し方だと、死亡診断書を書いた後は、分からないということ?

「普通は、遺体の輸送はどのように行われるのですか?」

「通常は葬儀業者が引き取りに来ます。もちろんご遺族が希望する場合には、直接引き取られても構いませんが。まあー、冷蔵設備のある車でないと腐敗が進みますから」

「漆丸議員の場合は、どうだったか分かりますか?」

「えー、ちょっと待ってくださいね」

と彼女はもう一度携帯の写真を覗き込み、担当医の名前を確認する。

「あれっ、山本先生?」

検死を担当した担当医の欄に、山本祐一郎と書いてある。

「ちょっとお待ちくださいね」

そう言うと彼女はどこかへ行ってしまう。

なかなか戻ってこなくて、待つこと10分。彼女はちょっとばつの悪い顔で戻ってくる。

「通常は、業者への引き渡しの確認書を担当医が保管しておくのですが、漆丸議員を担当した山本先生が、そのー、退職されていまして」

「あー、そうなのですか。それはいつ頃ですか?」

「それがこの議員さんの検死の翌日。つまり議員さんの検死をして、死亡診断書を書いて、遺体の発送が最後の仕事になります」

「ということは、引取り業者が分からず、担当の先生にもお話を聞けないということですか?」

「はい」

と申し訳なさそうに彼女は答える。

???

消えた死体に、翌日退職した担当医

何だろう?ちょっと変?偶然にしては、いろいろ出来すぎている。

婦長さんの方を見ると、記録が残っていないということに対して恐縮し、かつ彼女も偶然の重なりに不思議そうな顔をしている。

何かを知っているけれども、それを隠したり、嘘をついていたりするようには見えない。彼女は本当に偶然の重なりに驚いている感じ。

この婦長さんは、本当にこれ以上は知らないみたい。

私は感謝の言葉を述べると、病院を出る。

完全に行き詰ってしまった。何の手がかりもないし、これからどうすれば良いかも分からない。

やっぱり私には荷が重すぎたのかも。

そんなことを考えながら自転車を漕いでいたら、いつの間にか自宅に着いている。

ぐったりしながら自宅のアパートの階段をのぼり、部屋に入るとベッドに倒れこむ。

ちょっと、いろいろ休憩したい、そんな気持ちになる。

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