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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
無意識のインフェルノ
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雑居ビルと高層ビル

通りを曲がり少し狭めの道に入ると、ある雑居ビルの前で彼は立ち止まる。

「このビルの屋上。ここから先は僕でないと無理だから、ここで待っていて」

彼はそう言うと周囲をさっと見渡して、近くに誰もいないのを確認すると、ビルとビルのわずか50cmくらいの隙間に入り込む。そして両方の壁に足をかけてスタスタッと最上階まで登っていき、数秒で私の視線から消えた。

どのくらい時間がかかるのかしら?

と思いながら待っていると、1分くらいで彼は登ったのと同じように壁の間を伝わって、今度は降りてきた。

「あった」

とキラキラ光るピンク色の宝石のようなものを手に取って見せてくれる。太陽の光を反射して7色のプリズムが見える。

「きれい、まるで宝石みたい」

思わず声を出してしまった。

これがクリスタル?これに情報が入っているの?

形は少しいびつだけれど、何の濁りもなく完全な単色。

彼はそれをポケットに入れると、

「じゃ、用事は済んだし、帰ろうか」

と駐車場へ向かって歩き始める。

すると、何人かコスプレしている人たちと同じ方向に向かっていることに気付く。大宮でもごくたまにコスプレしている人は見かけるけれど、この集団はごくたまによりはずっと多く、多分どこか近くでイベントがあるに違いない。

私たちは途中でコスプレ集団と別れて、駐車場入り口に入らなければならないのだけれど、ちょっと興味があってその集団がどこに向かうのか、歩道に立ち止まってずっと眺めていた。

「興味あるの?」

「ええ、まあ」

「見て行っても良いよ。今日はお供してもらった訳だし」

「本当に?ありがとう」

と言って、結局そのコスプレ集団と一緒に同じ方向へ歩いていく。

彼らは60階建てのビルに吸い込まれていき、私たちも一緒にエントランスの中に入る。

エレベーター待ちの行列に並んで、エレベーターに乗る。こういう高層のエレベーターに乗ると耳がツーンと詰まった感じになる。

50階の会場に着くと、もうそこはかなりの人込みで、受け付けまで再び10分ほど並ぶ。

1階に比べて天井が低いせいか、はたまた一つの共通の目的で集まっている人たちの集団のせいか、熱気がすごい。

受付を済ませた後、すぐ隣の扉から会場に入る。

結構広めのホールで、中はいくつかのブースに分けれている。原画販売やグッズ販売、午後から始まる声優さんたちのトークショー会場など。

会場の端には、コスプレの人達用の更衣室があり、その出入り口付近には、着替え終わった人たちが群れている。

会場で着替えると、更衣室待ちに時間を取られるので、駅のトイレなど他の場所で着替えを済ませてしまう人も多い。さっき駅からビルまで歩いていたコスプレ集団はそういう人たちなのだろう。

以前から興味のあったグッズの売り場へ行き、キーホルダーやマグカップなど見て回る。

なかなか気に入ったのは見つからないので、まあ、それはまた別に探そう。

やがて、イベントの目玉の声優さんたちのトークショーが始まる。

舞台を中心に、かなりの人が集まっている。観客側は椅子もなく、床にベタ座り。

私はESと一緒にかなり後ろの方に座る。彼の隣に座るとまるで知り合いに見えてしまう。

私はふっとさっき思ったことを口に出す。

「名前、ESじゃ呼びにくいです」

「?。呼びにくいとは?」

「他の人が聞いた時に、ESだと名前と受け取れない。それに、試作品と呼ばれるのは嫌ではないですか?」

「別に。じゃ、何?別の呼び方で呼びたいと?」

「ええ、まあ。もう少し普通の人っぽいのが良いかなあと」

「構わないよ。好きな名前で呼べば」

何が良いかしら?そう言われても、元々私は自分のセンスをあまり良くないと思っている。

あだ名的なもので良いと思うのだけれど、なかなか思い浮かばない。

ちょうどその時、声優さんがコメントしていたのだけれど、その人の役柄が”涼”という名のキャラクターだった。

「涼?はどうですか?涼しいと書いて、涼くん」

ESはさっぱり分からないという顔をしたけれど、

「まあ、良いよ」

と納得してくれた。

これで彼を呼ぶときに、呼びやすくなる。今までESさんと呼ぼうかどうか迷っていたのだけれど、涼くんなら気兼ねなく呼べそうな気がする。

会場のイベントの方はつつがなく進み、途中、サイン入りのカレンダーの抽選があったり、観客から声優さんたちへの質問があったりと飽きさせない工夫で、あっという間に時間が過ぎていく。

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