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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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彼女は無実

急に彼女の意図に気付いて、パニックになる。不法侵入には違いないけれど、だからと言って理由も聞かずに殺されるとは思っていなかった。殺されるかもしれないという恐怖心が半分、怒られるけれど警察を呼ばれて命が助かるという望みが半分。

すると、彼女が再び口を開く。

「言い残すことは?」

言い残す?

ってことは、私は撃たれる?半分の望みが絶たれる。

そう思うと急に頭がくらくらしてきて、部屋がグラングランと揺れ出す感じがする。喉が渇いて動悸が早まり、何を話せばいいか全く言葉が出てこない。視野が急速に狭まってきて周囲が見えなくなってくる。

でも、少なくとも私の言い分を聞いてくれるのだから、彼女の気が変わる前に、とにかく何かを話さないと。

「あ、あのー、そのー、えっと」

変なことを言うと引き金を引かれてしまうから、慎重に言葉を選ばなければならないけれど、今度は反対に何を言えば良いのか、頭の整理がつかない。でも、整理がついていないまま思いつくことを口に出す。

「その、聞きたいことがあって」

目の前の床から、視線をゆっくり上げて、彼女の足、次に腹部、そして最後に顔へと移し彼女の反応を見るけれど、相変わらず無表情。でも、その無表情を見て少し安心する。少なくとも私のことを怒っているようには見えないから。

そう言えば、ずっと前に氷川神社の参道で初めて彼女に会った時も、こんな無表情だったと思い出す。

彼女は無言のままだったので、私の次の言葉を持っていると私は勝手に判断して続ける。

「2週間ほど前、私のすぐ近くにいた政治家の人が撃たれたのです。でも、もしかしたら私が狙われたのじゃないかと思って。それで、撃った人が誰かを探していて」

彼女は、相変わらず無表情で無言。

考えてみると、これに続く言葉は彼女にはとても失礼で不愉快にさせるかもしれない。だから言うのを躊躇していると、何となく彼女の顔の表情がじれったそうになってきた。私の聞きたいことの意味が汲み取れなかったのだろう。

「で?」

とうとう彼女が聞き返す。

じれったいと余計にかんしゃくを起こすものなので、もうはっきり聞かくしかないと踏ん切りをつける。

「あの、あなたが撃ったのですか?」

彼女は無表情のままだけれど、ちょっと間があってから答える。

「じゃ、答えを教えてあげる」

と、銃を持っている右手を肩からぴんと伸ばして、改めて私に銃口を向ける。その時になって私は初めて気づく。

こんなことを聞いたらダメだった。もし彼女が私を狙っていたのなら、その標的の私がわざわざ家まで来たら、単に撃ち殺すだけだから。私を狙っていないという答えを期待して、勝手にそういう結論を予想していたけれど、私を狙っていた場合を全く考えてなかった。

自分の想定外のことを考えておかなければいけないとは言うけれど、こういう場合のことだった。でも、今さら気づいても遅い。

銃のスライドを引く、カシャッという軽い音が聞こえ、私は目をつぶる。

もうダメた、と全身身構え、無意識に歯を食いしばる。

続いてカチャンという乾いた音がリビングに響く。

息が出来ないほど苦しくて、頭がふらふらして気を失いかけるけれど、いつまで経っても激痛らしいものを感じない。

あれっ

深呼吸しておそるおそる目を開けると、彼女が銃口を私に向けたままこちらを見ている。

目が合うと、

「これが答え」

と言って、銃を下ろす。

えっ、どういうこと?

「私は政治家を撃っていないし、あなたを狙っていない」

彼女は私に背を向けて部屋の向こうへ歩いて行く。その姿がやけに無用心っぽくて安心する。

彼女が持っていた銃は本物?それともおもちゃ?

それに言っている意味が分からない。現に学校の隣のマンションの監視カメラに彼女は映っていた。だから、彼女はうそをついていると思う。それを確認しなくては。

「マンションの監視カメラに、あなたが映っていました」

彼女は一瞬凍り付くが、すぐに元通りに戻り、銃を壁に備え付けの棚の上に置きながら、壁にもたれかかる。

「だから?」

「そのー、あなたが、何か、関係あるのかなあと」

彼女は視線をちょっと下に落とすと、おもむろに口を開く。

「私はあの政治家を狙っていた。でも撃っていない」

狙っていたことは認めるということかしら。

「撃っていない、とは?」

「他のだれかが撃った」

「他のだれか、って?」

「さあー、それは分からない」

彼女の言葉を信じてよいのかしら。相変わらず無表情だから、噓をついているのか、本当のことを言っているのか分からない。

「もう一人、絡んでいる人がいる、っていうこと」

そのもう一人の人物はどっちを狙ったのかしら?私、それとも議員さん?

これは彼女に聞いても分からなさそう。その私の疑問を彼女は察したのか、

「私以外の誰かも、そのブリキ人形に恨みを持っていて、匿っているあんたを狙った」

と涼くんを指さしながら、窓の外の遠くの景色を見て、他人事のように言う

確かに私は、彼について何も知らない。それは彼自身が人で言う記憶喪失であって、過去のことを何も覚えていないから、知りようがない。

彼の過去を知らないから、一瞬そうかもしれないと思ってしまう。

でも、直感的に何か違う気がする。

彼がそんな恨まれることなんて、あるのかしら。

ちょっとばかりだけど、彼と一緒に暮らしていて、何となく彼の性格や考え方は分かってきたつもりだった。

「多分、それは無いと思います。しばらく彼と一緒にいたから分かるけれど、彼には意志というものがないのです」

彼女は、ポカンっと不思議そうな顔で私を見つめる。

「機械だからかもしれないけれど、彼には自分でどうしたい、こうしたいという願望も意志もないです。自分が指示を仰ぐと決めた人を、その場その場で困っていたら助けてくれるけれど、長期的な自分の目標に基づいて動いている訳では無いです。だから、彼が自分の意志で何か人に迷惑をかけるということはありえない。もし過去にそんなことがあったら、それは誰かに指示されただけだと思います」

彼女は、そんな考えは思いつかなかったというような意表を突かれた顔で、まじまじと私を見る。

「例えば、包丁を使って誰かが誰かを襲ったとすると、襲われた方は包丁を恨みますか?恨まないでしょう。包丁を使った加害者を恨むことはあるけれど。それと一緒です」

この後を言って良いかちょっと迷う。でも、一番言いたいことはこれだから言ってしまう。

「だから、もし、あなたが彼に何か恨みを持っているとすれば、それは思い違いであって、あなた側に原因が」

と、そこまで話かけた時、彼女は眼にも止まらぬ速さでこっちに駆けてきて腕を振り上げた。

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